扉を開けた瞬間、担いだ男の重みでバランスを崩し、玄関の中へと倒れ込んでしまった。

「いたた…痛いし重いし…」

半分下敷きになり、なんとかそこから這い出して壁に沿わせて腕を伸ばし、電気をつけた。

暗がりになれた目に蛍光灯の明かりが眩しい。
ドアが男の足に引っかかり、開きっぱなしになっていることに気付く。男の両脇の下に手をかけ、ズルズルと廊下に引っ張り込む。ストッパーを失ったドアは自然に閉じた。
履きっぱなしだった忌々しいパンプスを片足ずつ脱ぎ取り、廊下から玄関に放り投げた。
さっきと同じように男を引きずり、廊下の奥のドアからリビングに入る。部屋の真ん中に男を寝かせた。
右隣に崩れるように膝をつく。息を整えながら改めて男を見る。
…背が高い。体は細いが、大の大人の男だ。
それをここまで運んでこれるなんて…

なぜ自分はこんなことを?
一瞬だけそんな疑問が頭をよぎるが、すぐに立ち上がった。
まずやらなければいけないことがある。
バスルームに走り、洗面器に水を溜める間に髪を後ろにまとめ、タオルを数枚つかんで水の入った洗面器と共に部屋に戻る。それらを男の隣に置いて、リビングの収納棚の中からプラスチック製の箱を引っ張り出す。使うことは稀でも、一人暮らし歴の長さから中身は充実した救急箱。
箱の中身をひっくり返しながら手当てを開始した。
額の傷口を拭いてやると、出血の多さのわりに傷は浅かった。どうやらこの傷のせいで気を失っていたわけではなさそう。体の方の傷も大したことはなかった。
黙々と手当てをする。不思議と、見知らぬ男の体に触れることにためらいはなかった。


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