街灯が少ない細い路地に、コツコツと靴音が響くのが頭にくる。
久しぶりに参加した合コンはとんだ期待はずれ。どうやったらあんな面子を揃えられるのかしら。奇跡の人選をやってのけた幹事の女は、終電があると早々に帰っていった。
あんた、あたしと同じ方向じゃないの。私が乗った電車こそが、確かに終電だったはずだ。酔っ払いしか乗っていない電車を降り、徒歩15分のマンションへ帰る。
中途半端な距離だ。酒が入った体には少しツラい。家賃と部屋の内装・広さの不釣り合いさにだけ惹かれて部屋を決めたことを少し後悔する。
足が痛い。気合いを入れて履いた華奢なパンプスをただただ憎む。
知性の欠片もない男の話を聞き流すために強い酒を何杯も煽った。あぁ耳障りだった。

何度もため息をつきながら、やっとマンションにたどり着く。入口まで10m。
ふとマンションの入口を見ると、黒い何かが捨ててあった。
ゴミ?
よく見えないままに、足が限界に近いので足早に近付く。早く裸足になりたい。
黒いだけかと思っていた物体に、肌色が見えた。

「…酔っ払い?」

人だった。
体格から見て、男。膝を丸め、横向に倒れている男。右腕の上に頭を乗せ、顔は伏せているため見えない。さらにその横顔を左腕が隠している。
…通れない。
その体は完全にマンションへの入口を塞いでいた。全体の大きさに比べ、入口は比較的小さいマンション。カードキーを通すか、暗証番号を入力しなければ玄関ホールにも入れない。
パンプスのつま先が、男のスネにくっつくギリギリまで近付いて手を伸ばしてもカードキーは届かない。男受けを狙った女らしいスカートで、得体の知れない男を跨ぐのもはばかられる。第一、入口のガラス扉と男の背中の間には足を置くスペースもない。
一体どうしたものか…。なんて迷惑な酔っ払いなの?
若干怒りを覚えつつ、途方にくれる。
マンションの管理者に電話をしようか。そう思ったが、電話番号なんて控えていないことに気付く。かと言って、警察を呼ぶのはためらわれる。


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