それでも私は彼は弁解すると思っていた。これは気の迷いだ、とか。魔がさしたんだ、とか…。 彼女が身支度を整え、彼と小さく短く会話して部屋を出ていった。彼は彼女の背中を見届けてから、大きくため息を吐いて言ったの。 『なんでこんな時間に帰ってくるんだよ』 それが第一声。もう何から怒ればいいのかわからなかった。ううん、怒りはなかった。 ただ、惨めだった。悔しかった。切なかった。 『お前も清々してるだろ。俺と別れる口実ができて』 言っている意味がわからなかったわ。なぜ彼から出る言葉は謝罪でも弁解でもないのだろう。まるでこの時を待っていたかのように彼は話すの。 『お前は俺のことなんて好きじゃなかったんだろ』 なぜ好きでもない人と付き合わなきゃいけないの? 『お前からは愛情が感じられなかった。もっと言葉や態度で表せないのか?』 愛って、もっと見えない何かで伝わるものじゃないの? 『可愛くないんだよ。俺のことを見下してるみたいで。自分の方が頭もいいし仕事もできると思ってるんだろ』 どうしてそんなこと言うの? 『なに、泣くの?』 …泣くものか。 『演技?お前は泣くような女じゃないだろ』 あなたは私の何を知っているの? 『今すぐ私の前から消えて。もう顔も見たくない』 ただそれだけしか言えなかった。 浮気をしたあなたが悪いんじゃないの?一言も謝らずに、作り上げた私の虚像を非難して。本当の私を見もせずに。 あなたは出ていった。 * * * * いつからか涙がまた零れ落ちていた。泣きながらただただ心の中に留めていた言葉を吐き出した。阿近は私が話す間ずっと、手を握ってくれていた。 |