「阿近!」
「……ん?」
「また本出しっぱなしなんですけど?」
「まだ読んでる」
「だから一冊ずつ読みなさい!」

阿近と出会ってから何日たったのだろうかと、最近ではわからなくなってきた。
朝起きれば隣には阿近がいて。一緒に寝るようになったのはつい最近のことで、ただ手を繋いで眠ることがくすぐったく、まだ少し恥ずかしい。
仕事から帰れば毎日のように、部屋を散らかした阿近を叱りつけて。
好き嫌いの多い阿近になんとか食事をさせて。
一日の終わりに阿近の傷の手当てをするのが日課となっていた。

「…はい、これが最後」

ピリッと阿近の腕に貼られた絆創膏を剥がす。結局、怪我の原因も聞かないままに完治させてしまった。

「やっと治ったか。ありがとさん」
「……」
「…なに?」

阿近は黙り込む私に問い掛ける。剥がした絆創膏を丸めながら、ふと気づいてしまったのだ。
私は阿近がこの部屋に住ませろと言ってきた時、『怪我が治るまで』という条件を出した。阿近の怪我が治ってしまったら、阿近がこの部屋に住む理由はなんだろう。
そう気づいてしまった瞬間、言葉が口をついて出た。

「ねぇ阿近、これからも…」

ピンポーン…

「…誰か来たぞ」
「…うん」

無意識に口から出た言葉は、来客を伝えるチャイムの音に遮られた。そこで我に帰り、今さっき言ってしまいそうになってしまった言葉が恥ずかしくて、私は阿近の顔を見れず俯いたまま玄関に向かった。

これからも、この部屋にいてくれる?
そんなことを思うようになってしまったなんて、一体私はどうしてしまったのだろう。
でも今の生活が自分にとって大切なものとなっていて。阿近を失いたくないと思った。

ピンポーン…

「はいはい…」

もう一度鳴ったチャイムに少し足を早める。こんな時間に誰だろうか。


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