慌てふためく私をものともせず、阿近は私を布団の中に引きずり込む。

「こら暴れるな」
「ひとりで寝る!」
「ダメだ」

ジタバタと暴れる私の肩をギュッと布団に押し付けて。有無を言わさぬ強引さに抵抗をやめれば、阿近は私の隣で腕を頭の後ろで組んで仰向けに寝る。
しばらく2人揃って、天井を見つめた。だんだんと迫ってくる睡魔を感じながら口を開いた。

「私、落ち込んで見えた?」
「あぁ」
「そう?」

キシッと小さくスプリングをきしませて、阿近は体を私の方に向ける。

「いつも強気な顔してるくせに、すげー弱い顔になってた。泣きそうなのに泣かないで。雪那の性格からして俺の前では泣かないと思ったけどな。意識がなくなって、無防備になってからじゃないと泣けないんじゃねーの?」

寝てる時とか?と、最後に阿近は言い添える。すべてを見透かしているような話しぶり。

「…私、泣いてる?寝てる時」
「あぁ」
「なんで知ってるの?」
「夜這いに来てみたら見てしまった」
「ちょっと!」
「だから戦闘意欲をそがれてしまったわけだ」

さすがに泣いて寝てる女をヤれるほどひどい男にはなれない、と。しれっと言うこの男の正直さはいかがなものか。
結果的には良かったのか良くなかったのか…でも泣き顔を見られたのは居心地が悪い。

「お前は何を抱えているんだ?」

あぁやっぱり私は何かを抱えてしまっているんだ。どんなに振りほどこうともがいても、離れてくれない『何か』。

「くだらない過去か何かかな…」
「そうか」

私の曖昧な答えに、阿近はそれ以上聞いてくることはこなかった。

いつの間にか阿近の手と私の手が繋がっていた。
阿近から触れてきたんだろうか。私から、求めたんだろうか。
そんなこともわからないほど自然に2人は手を握り合っていた。どちらから繋いだのかも分からず、どちらかが振りほどくこともしなかった。
人の体温がこんなにも心地良いなんて。抱き合うわけでもなく、ただ手を合わせているだけでこんなにも落ち着けるなんて。

何かにうなされることなく、何の夢も見ずに眠ったのは本当に久しぶりだった。


And that's all?


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