* * * * * 勢いよく出るシャワーに打たれながら、心の中ではグルグルと感情が渦巻く。水音が頭の中で反響する。その音を遮りリフレインする、あの時の、最後の言葉。 「なに、泣くの?」 泣くものか。泣いてたまるか。 このシャワーで、心の中の醜い感情も流れ落ちてしまえばいいのに。記憶も、全て洗い落とせればいいのに。 「惨めだな…」 音として呟かれた言葉が、余計に惨めな気持ちにさせた。 ガチャッ 「え?」 突然背後で開いた扉。振り返るとそこには、 …阿近が立っていた。 「…………」 「おぉ…」 そう言って阿近はマジマジと、私を上から下へ見つめている… 「…――っ?!」 何が起きているのかをようやく理解した瞬間、声にならない声で叫んでその場にへたり込んだ。 「ななんなの?!何してんの?!出てってよ!!」 「いいじゃねーか減るもんじゃない」 「いい訳ないでしょ!!」 「いてッ」 手当たり次第に近くにあったシャンプーや石鹸を掴んで阿近に投げつける。私の必死の攻撃を避けるために阿近は扉を閉め、最後に投げた洗面器が扉に跳ね返った。 「何考えてんのよあんたは!」 顔が熱くて仕方がない。恥ずかしさからか震える脚に力が入らず、まだへたり込んだままだ。ガラス越しに阿近が扉の向こうで背中を向けて座り込んでいるのが分かった。 「しょぼくれた顔してんじゃねーよ」 「は?」 「…悪かったよ」 そう言って阿近は立ち上がり、去っていった。 その「悪かった」は、お風呂を覗いたことに対して?それとも、さっきの煙草の件? 「…意味わかんないよ」 思わず笑いがこみ上げてきた。本当にあの人のすることは予測不可能。 |