* * * * *

「…何してんのそれ」

ダイニングテーブルの向かいに座る阿近の皿の端には、綺麗により分けられたトマトが、こんもりと山を作っていた。

「トマトは好かん」

コロッと最後のトマトを山の頂に乗せながら悪びれず言う。本当に何様なのこの男は…。

「トマトもダメなの…」
「嫌いなものリスト作ってやろうか」
「いい」

そんなもの作られたらいよいよ私のレパートリーは底をつく。

「食べなさい」
「いやだ」
「食え!」
「断る」

食事のたびになんでこんな母親みたいなことを言わなきゃならないんだ…頭を抱える私を気にも止めず、阿近は自分の皿のトマトをフォークですくい、私の皿にポトリと落とす。

「…何も教えないつもりなの?」
「なにを?」
「私、あなたのことまだ何も知らないんだけど」

増えたトマトを阿近の皿にヒョイヒョイと戻しながら言う。阿近はそれをまた私の皿に戻しながら答える。

「教える必要はないだろう」
「あるに決まってるでしょ」
「どうでもいいと思うがな」

皿の間を飛び交うトマトの往復を止め、ため息をつく。皿の中身を弄びながら最大の疑問へ。

「なんでこの部屋にいるの?」

理由が欲しかった。確実な、理由が。見ず知らずの私の部屋に、阿近が居座り続ける理由はなんだろう。

「気になるから」
「…何が?」

阿近は私の目を見つめる。人の目を見て話す男だと思った。
不思議と綺麗な色の目で、見つめていると、全てを見透かされているような気分になる。
鋭くも優しさを感じる目が、ほんの少しだけ、笑む。

「雪那が、気になるから」

カッと顔が熱くなった。重なっていた視線を逸らす。

「…ふざけないでよ」
「ふざけてないよ」

クッと笑いながら言う阿近は私をからかっているんだろうか。そらしていた目線を上げれば、まっすぐに見つめてくる阿近の瞳と重なる。

「…ひとりで泣くなよな」
「…なに、言ってるの?」
「雪那、いつも寝ながら泣いてる」
「…ッ」
「夢に、うなされてる」
「…」
「気になるんだ」

阿近のこんな優しい声は初めて聞く。
この人は本当に、私の全てを見透かしているようで。想いが通じ合っているような、錯覚をした。

見ず知らずのあなたを、私はこの部屋に受け入れた。
あなたをこの部屋に入れた時から、私はあなたに期待していた。
あなたなら、こんな私を……

誰でも良かったわけじゃない。
私はそんなに器用じゃないから。


And that's all…?

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