ふとダイニングのテーブルの上を見ると、阿近のために朝用意した昼食がそのまま残っていた。

「また食べなかったの?」
「…1人で食うのは味気ないもんだ」

阿近はチラッとこちらを振り向き、またプイッと本に戻りながらボソッと言う。
子供かお前は…いや、手のかかるペットか。

阿近は生活に無頓着だ。食べることも寝ることも、たいしたことだと思っていないらしい。人間に必要な生命維持を平気で放棄する。
一体今までどうやって生きてきたんだろう。
私が適当に買い与えた薄手の黒いVネックのセーターに、カーキ色のラフなパンツを履いた阿近の体は、当たり前だが細身だった。でも決して頼りないわけではなく、背が高いから尚更そう思わせる。
スタイルがいいな。初めて見た時からそう思っていた。
見た目だけならモテるんだろうな。なんで彼女いないんだろう。なんであんな怪我していたんだろう。何歳なんだろう。仕事はしていないんだろうか。

…なんで、この部屋にいるんだろう。

じっ…と見つめていると突然顔を上げた阿近と目が合い、ドクン、と心臓が不自然な動きをする。

「雪那…」
「…なに?」


「腹減った」

この男、口を開かなければ…何度そう思ったことか。

「お昼食べないからでしょ」
「ごめん」

あまり悪いと思っている風もなく、しれっと謝る阿近。
とりあえず食べさせなければ。いろいろな疑問や呆れや怒りやらを無理やり脳内から締め出し、キッチンに向かう。
ペットというものは手がかかる…


- 3/4 -
[ *prev | BACK | next# ]


- ナノ -