ふとダイニングのテーブルの上を見ると、阿近のために朝用意した昼食がそのまま残っていた。 「また食べなかったの?」 「…1人で食うのは味気ないもんだ」 阿近はチラッとこちらを振り向き、またプイッと本に戻りながらボソッと言う。 子供かお前は…いや、手のかかるペットか。 阿近は生活に無頓着だ。食べることも寝ることも、たいしたことだと思っていないらしい。人間に必要な生命維持を平気で放棄する。 一体今までどうやって生きてきたんだろう。 私が適当に買い与えた薄手の黒いVネックのセーターに、カーキ色のラフなパンツを履いた阿近の体は、当たり前だが細身だった。でも決して頼りないわけではなく、背が高いから尚更そう思わせる。 スタイルがいいな。初めて見た時からそう思っていた。 見た目だけならモテるんだろうな。なんで彼女いないんだろう。なんであんな怪我していたんだろう。何歳なんだろう。仕事はしていないんだろうか。 …なんで、この部屋にいるんだろう。 じっ…と見つめていると突然顔を上げた阿近と目が合い、ドクン、と心臓が不自然な動きをする。 「雪那…」 「…なに?」 「腹減った」 この男、口を開かなければ…何度そう思ったことか。 「お昼食べないからでしょ」 「ごめん」 あまり悪いと思っている風もなく、しれっと謝る阿近。 とりあえず食べさせなければ。いろいろな疑問や呆れや怒りやらを無理やり脳内から締め出し、キッチンに向かう。 ペットというものは手がかかる… |