そういえば、と大事なことに気づき、急いでやかんに水を入れて部屋を出た。 下の玄関に男の血が残っていた。朝になって住人に見つかったら面倒なことになる。 自分は何も悪くないとは思いつつも、血痕を隠滅するのはヒヤヒヤした。 * * * * * 事を終えて部屋に戻るエレベーターの中でふと思う。 あの男を1人残して大丈夫だった…? 見ず知らずの男。素性も何もわからない。金品は不用心に部屋の至る所にある。 「……早く戻ろう」 小走りに部屋へと戻った。 * * * * * 恐る恐る、男が寝ているはずのリビングのドアを開けた。自分の足元から床に沿って視線を上げていく。 …いない。 「うっそ…マジ?」 絶望的な気分で、ふらりと部屋の中に足を踏み入れる。なんて軽率なことを。左手で額を覆って後悔しても後の祭りか…。 「…んぅ…」 「……え?」 今かすかに声が…。ゆっくりゆっくり、部屋の左側に置かれたソファに近付き、背もたれの向こうをのぞくと…… 「…すー…」 毛布にくるまり、柔らかいソファにうずもれて男は静かな寝息をたてていた。 はぁ…とため息をついた。起きれるんじゃない…ちゃっかりソファで寝ちゃって… どうやら逃げる気はなさそう、ね…。背もたれに肘をつき、頬杖をつきながら呆れてしまった。 「…口、開いてるし」 ほんの少し口を開いたまま、くかーと安心しきった顔で寝る男に対する不信感は消えてしまった。 仕方がないから、今日は泊めてあげるわ。 そう決めた時、自分の口の端は上がっていた。 しばらくそのまま見つめていたら、どっと疲労がこみ上げてきた。うつらうつらとし、頬杖をついた手の上から頭が滑り落ちたところで覚醒する。ふらふらと部屋を横切り電気を消す。バスルームへ重い足を引きずりながら思った。 それにしても、可愛い顔で寝る男だなぁ… And that's all…? |