なんで断らないんだ俺!
そわそわと落ち着かないまま身体を前後に揺らす。
ほとんどのガラクタをゴミ捨て場に運び、カーネルサンダースその他は部屋の隅に追いやった。だってさすがにゴミ捨て場に捨てるわけにはいかない。
謎の女(なんかこの言い方めんどくさくなってきた)はキッチンにいる。

ガタン、ゴキッ、ごぽ、チャポン、メキメキョ…

「おい何の音だよっ?!明らかにメシ作ってる音じゃねーだろ?!」
「気にしなーい」
「気になるし!」

ゴキッ、ギュルル、…にゃー…

「猫?!いま、猫がっ!!」
「ノラ猫来たかなー?」
「いや、明らかにキッチンから聞こえた!!」

一体なにを食わされるんだ。やっぱり退散したほうがいいのでは…。
物がなくなりさっぱりとした部屋をそわそわと見渡す。すると、リビングの隣の小さめの洋室の扉下から、紙切れが出ていた。
そういえばこっちの部屋は手をつけていない。きっと同じようにすさまじいことになっているのだろう。
開けようか開けまいか。開けたら雪崩が起こるだろうか。恐る恐る扉に近づき、とりあえず紙切れを引っ張り出した。ら、そこには見覚えのある顔があった。

「じゅ、十代目!」
「じゅーだいめ?」

謎女がキッチンから顔を出した。

「なんでこんな所に十代目のお顔が?!」
「…あぁ、沢田くんか」

す、と俺の手から画用紙を抜き取り、謎女は十代目のお顔をじっくりと眺めた。そして、俺を見上げて言った。

「どう?」
「どうって?」
「あたしの絵」
「お前の絵?!お前が描いたってことか?!」
「うーわー失礼な反応」

だってこんな変な女が描いたとは思えない。信じられずに絵と謎女を見比べていると、謎女が隣の部屋への引き戸を開けた。

「じゃーん」

謎女の気の抜ける声が響く。瞬間、絵の具の匂いに包み込まれた。

「あたしのアトリエー」

扉を開けたそこは、海だった。膨大な量の画用紙が床を埋め尽くし、まるで波打っているように。極彩色の海の中央に浮かぶのは年季の入ったイーゼル。四方の壁と天井まで壁紙が見えないほどに絵で覆われている。
足元の絵を1枚拾って見てみると、この部屋を埋め尽くしていたガラクタの意味がわかった。
ひとつのガラクタを、数十箇所の視点から見た緻密なデッサン。よくもここまで、と思うほどに描き込んでいる…。


「沢田くん以外にもたくさんいるよ」

隅の本棚から抜き取ったスケッチブックをぱらぱらと捲りながら謎女が言った。十代目、山本、笹川、芝生頭、雲雀、風紀委員の連中、教師…。
デッサン、油絵、水彩など、単調さを感じさせない。その絵の主がまるで目の前にいるかのように生き生きとしていた。

「…すげぇ」

絵に特別興味があるわけではない。だが、この絵はすごい。純粋にそう思って、謎女が持ってきたスケッチブックを俺は次々とはぐっては見入った。が、ひとつ気になることがある。

「…十代目の絵が多くねぇか?」

そう、何冊か見せてもらったスケッチブックの半分は十代目の絵だった。

「まさかお前十代目に…?!」

恋愛感情を抱いているのでは?!

「沢田くんは、描いていておもしろいの」

言おうとして遮られた。おもしろい?十代目がおもしろい?何を失礼なことを。

「なんかね、オーラがあったかくて、いろんな色になるの。描く度に違うんだ。普段はイマイチだけどたまにすごいことするし。きっとただ者じゃないね」

淡々としたリズムで謎女は喋る。言葉が進むにつれて俺の心の中で沸々と湧き上がる何かを感じた。

「お前…わかってるじゃねーか」
「ん?」

俺は謎女の肩をバシバシと叩いた。

「十代目の内なる力に気づくなんて、お前いいやつじゃねーか!!」
「んん?」
「十代目はなぁ、初めて出会ったときから偉大なボスとなる器をお持ちのお方で…・・・」


意気投合?
(かくかくしかじか…・・だから俺は一生あの人について行こうと決めているんだ!)
(うーん??)

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