「なんなんだこの部屋は!」 鍵開けっ放しの玄関から一歩足を踏み入れると、そこは異世界だった。とにかくよくわからない物が部屋一面に溢れている。 「ねー早く助けてー」 「何様だお前!」 一番物が多いベランダ、そのガラクタの向こうから気の抜ける声が聞こえてくる。ていうか、さっきは一体どうやってそこまで出たんだ。 ガタガタ、ガチャガチャ、やかましい音を立てながらガラクタをかき分けて進路を切り拓いていくと、謎の女の背中が見えた。 さっきと変わらぬ姿勢のままベランダの柵の上にしゃがんで、空を見上げながら鼻歌を歌っていた。 「おい!」 「…んー?」 「んーじゃねぇ!危ねぇからさっさとこっち来い!」 「…手」 「て?!」 「手ー貸して」 「…おら!」 俺は謎の女に手を差し伸べた。とにかくそんな危なっかしいところにいられるとこっちの心臓がもたない。繋いだ手を引っ張る。ぐらりと傾いた身体が、俺の方に倒れてきて、ふわりと着地した。 「…ったく…」やっと緊張がとけ、ため息がでた。 「…君はだれ?」 女が俺を見上げて尋ねた。俺は質問の内容より、その女が触れ合うほど近くにいることに驚いた。慌てて繋いだ手を離し、2、3歩下がった。ら、壁際のガラクタにぶつかって一気に雪崩にのみこまれた。 「…おーい、だいじょーぶ?」 「いって…畜生なんなんだこのガラクタの山は!」 「がらくたじゃないもん、宝の山」 「捨てろ!片付けろ!」 「えー」 「俺がすべて捨ててやる!」 「だぁーめぇー!!」 部屋の中を歩き回り、次々出てくるガラクタたちを整理し始める。 「なんだこのオヤジの像は!!」 「カーネルサンダース」 「この子どもは!!」 「不二家の前にいる子」 「このバス停は!!」 「…並盛2丁目?」 「何コレクターだお前は!!」 叫びすぎて眩暈がしてきた。なんなんだこのシュールなインテリア満載の部屋は。 * * * * 「部屋ひろーい」 ぐったりと座り込む俺の周りをとことこと歩き回っているこの女。なんで俺は見ず知らずの女の部屋を掃除していたんだ。 「獄寺くん」 「…なんだよ」 「大丈夫?」 「大丈夫じゃねーよ、…っつーか、なんで俺の名前…」 「並盛中学校2年A組獄寺隼人」 薄く笑みながら言う、その顔が少し勝ち誇ったような感じで。気にくわない。そういえば、こいつは並盛の制服を着ている。だから俺を知っているのか。俺は知らないが。つーか興味ねぇし。 「…とにかく、もううちのベランダまで侵食してくんなよ」 「え、帰っちゃうの?」 帰っちゃうの、って、帰るだろ、うん。だいたいなんで俺こんな見ず知らずの女の部屋に長居してんだ。ガラクタをどかして現れたベッドとか、カゴに無造作に入れられた衣類(下着含む)とかが、さっきまで気にならなかったのに妙に目につく。 急速にいたたまれなくなってきた俺は立ち上がって玄関に向かおうとした。ら、制服の裾を掴まれた。 「なんだよっ」 「ごはん」 「あ?」 「ごはん食べる?」 なんだそれ。つーか、下から見上げるのはやめろ。 晩餐inがらくた部屋 (あたしごはん作るのマジ得意だからノープロブレム) (いや、聞いてねーし信用できねーし、の、ノーサンキュー?) |