歓喜と絶望の両極端の声が飛び交う教室内。ピンクの画用紙を張られた元・ティッシュボックスの空き箱から取り出される、四つ折り5cm四方の紙片。その中に書かれた数字によって、ここまで人の心は揺さぶられるものか。

「…おい獄寺、早くクジ引け」
「…ぬぉぉぉぉ……」

担任が呆れた声を出す。これで3度目の催促だが知ったことではない。おれはこの一瞬に全身全霊賭けている。右の拳を頭上高く掲げ、渾身の念を込めた。29、29、29、29、29…もしくは36、36、36、36!!

「ご、獄寺くん、早く引いた方が…後ろの人たち困ってるし」
「…ッ十代目!任せてください、必ずやお傍に参ります!」
「いや、でもクジだし必ずは…」

先にクジを引かれた十代目が手にした紙片、数字は35番。今一度、黒板に書かれた席表を確認した。狙うは十代目の右隣29番。十代目の右腕たるもの、この席は一番の狙い目だ。授業中に十代目のアシストも出来る絶好の席。もしくは十代目の真後ろ、36番。常に十代目を視界にお入れし、危険が及べばすぐさま対処できる。加えて窓際一番後ろ。これは魅力的だ。

「…ッ見えた!!」
「は?」
「これだ!!」

勢いよく拳をクジ箱の狭い入口に突っ込み、最初に手に触れた紙をつかみとった。

「はいはい、で、獄寺何番だー?」

担任がチョーク片手にため息混じりに言う。右手の上に乗せられた小さな紙。この中の数字に、おれと十代目の命運が…ッ!

「命運?!ただの席替えだよ?!」
「十代目…おれはくじ運はいい男です!いざ!」

パンッと伸ばしたクジに書かれた数字は……

「……」
「獄寺くん…な、何番だったの?」
「…………」
「沢田、見てやってくれ」
「あ、はい…えーと……36番」
「いよっしゃぁぁぁ!!」
「わあああ?!」

十代目と両手を取り合い、喜びを分かち合った。十代目も涙目で叫びだすほどお喜びだ。右腕としてこれほど嬉しいことはない。

机を移動し、新しい席につき周りを見まわした。うん、悪くねぇな。十代目を常に見守れるこの席。むしろ隣より当たりだ!

(背後から獄寺くんの視線が痛い……)


開け放たれた窓から爽やかな風が吹き、前髪を躍らせた。心地よい日差しが降り注ぐ、窓際一番後ろの席。

新しい席の居心地の良さに満足していると、隣から耳障りな声が話しかけてきた。


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