「お、おれの隣は獄寺かー」


聞き捨てならないその声に反射的に隣を向くと、そこには満面の笑みの野球バカ、山本がいた。

「なっ、てめぇ!!なんでおれの隣にいやがる!!」
「そりゃこの席の番号のクジをひいたからだな」
「く…っ、最悪だぜ…っ」
「まあ仲良くやろうぜ、授業中あてられたら答え教えてくれよな」
「ぜぇっってー教えねぇ二度と話しかけんな」

なんだよつれねーなー。ハハハと笑いながらバシバシ俺の肩を叩いてくる山本の手を払いのけた。机を軽く持ち上げ、より窓際に机を寄せ、バカから離れた。バカがうつる。

「お、ツナも近くじゃん。こりゃいい席だなー」
「山本…(よかった山本がいてくれて)」
「おい、十代目の勉学の邪魔をなさったらただじゃおかねぇぞ」
「あれ、ツナの隣はいないのか?」

山本の言葉どおり、確かに十代目の右隣は空席だった。クラスの誰かが動かしたのだろう、無人の机だけがそこにはあった。

「そこは永瀬だ。あいつまた遅刻かー?」

担任が黒板の席表を消しながら言った。永瀬…?癪だが、山本の方へ少し身体を寄せた。

「おい、その永瀬ってのはどんな奴だ?」
「獄寺知らねーのかよ。クラスメイトだろ?」
「興味ねーよ。そいつが十代目に悪影響だったなら消すまでだ」
「うーん、どんな奴…かー。おれもよくわからねぇんだよな、永瀬。挨拶くらいしかしたことねぇし。よく遅刻や欠席するし」
「…んだよ、役にたたねぇ野球バカだな」
「おい獄寺、どこ行くんだよー?」
「うるせぇ、一服だ」

ガタン、と席を立ち教室の出口へと歩く。ったく、教室じゃ煙草も吸えねぇなんてめんどくせぇ。

「おい獄寺!どこへ行く!」
「便所っす」
「嘘をつけぇ!手に煙草持ってるだろう!」

あーもー教師ってのはうるせーなー。バレているならもうどうでもいいと思い煙草をくわえジッポを取り出しながらすたすたと教室を横切り扉に手をかける。すると、おれが触れる前に外から扉が開いた。

目の前には女が立っていた。おれのちょうどアゴの下あたりの身長。俯いた顔で、伏せられたまぶたを縁どるまつ毛と、それによって頬にできた影が妙に印象的だった。

す、とおれの横をすり抜けていく女の方をチラリと横目で見ると、風になびく髪だけが目に入った。

こんな時間に入ってくるなんて、なんだこいつは?

一瞬疑問がわいたが、すぐに消えた。いい加減ヤニ切れでイライラする。入れ違いに教室を出て、廊下で煙草に火をつけながら中庭へと向かった。



席替えデスティニー
(こらっ永瀬また遅刻だぞ!)
(すみませーん)
(おはよう永瀬!永瀬の席、おれの前だぜ。で、ツナの隣!なーツナ!)
(永瀬さん…よ、よろしく)






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