- 第8話 ‐
百日草



「なんで帰っちまったんだよ?!お前がいりゃ優勝できたのに!!」

親善試合の次の日、隊舎に入った瞬間から阿散井副隊長は毎日毎日こればかりで。
最初は軽く流していたんだけど。聞き流し続けるのも疲れるのだと気づいた。

「今年こそ優勝できると思ってたのに…っ」
「あれはマグレです。檜佐木副隊長が油断していたのと偶然が重なって起こったことです」
「いや、お前はすごい!すぐにでも席官になれる」
「…なれませんし、なりません」
「なんでだよ?」
「私の仕事はデスクワークです」
「だからそれはなんでなんだよ?!」
「入隊前からの決定事項です。私は戦いません、そのかわり隊の事務全ての責任を任されています。阿散井副隊長が苦手な報告書の作成も、現世派遣費の請求も私が行っています。今、阿散井副隊長が3ヶ月前からためている書類整理をしています。とても大変です」
「…う…」
「では、失礼します」

毎度の問答を繰り返し、阿散井副隊長が言葉に詰まったところで自分の席へと逃げた。しかし安息の地にも頭痛の種が。

「万葉」
「…檜佐木副隊長、九番隊に戻ってください」
「この後飲みにいこうぜ」
「聞いてください。そして何度誘われても行きません」
「なかなか心を開いてくれねぇな」

檜佐木副隊長はあれ以来2日と開けずに六番隊にやってくる。どうやら気に入られてしまったようで。

「でもまぁ、なんだかんだで相手してくれるよな」

なかなか帰らない檜佐木副隊長に折れて、お茶を出してあげたらこんなことを言われて。この余裕そうな態度が苦手だ。私なんか相手にしなくても、いくらでも他に女はいるだろうに。関わりたくない。できれば誰とも。

「…檜佐木副隊長がしつこいからです」
「努力が報われてるってことだな」

この薄く笑む、綺麗な笑い方も苦手だ。眼を合わせられない。顔が熱くなるのは…、理由なんてきっと、ない。


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