檜佐木副隊長は私が出したお茶をのんびりとすすりながら言った。

「今日、俺の行きつけの店予約してあるから。西流魂街1地区3丁目外れの『柊』。絶対来いよな」
「え?」
「来るまで待ってるから、な?」
「ちょっ…」

一方的にそう言うだけ言って、檜佐木副隊長は執務室を出て行ってしまった。

「私、行くとは言ってませんよ?!」

その背中に投げかけた言葉が、届いているのかは不明。はぁ…っとため息をついて椅子に崩れるように座った。
ふと見ると、机の向こうに赤い髪の先がひょこひょこと揺れている。

「…3丁目…柊…」
「…阿散井副隊長、何をメモしているんですか?」
「うお?!」
「…盗み聞き、ですか…」
「ち、違う!違うぞ?!」

大きな図体を隠しきれずにコソコソとしていた阿散井副隊長の背後から威圧した声を出せば、慌てふためいて否定しながら逃げていってしまった。副隊長って、どこも暇なのかな…。


* * *

西流魂界。

「な・ん・で、犬がついて来てんだよ」
「先輩行きつけの店なんて言って見栄張るのやめましょうよ、いつもはもっとやっすい居酒屋…いててててっやめてくださいよ!」
「黙れ。さもなくば院生時代のお前の醜態100選をここで大声で暴露する」

ギャーギャーとじゃれあっている二人を見ていて、仲がいいんだなと思った。

「あれ、個室じゃないんすか?」
「邪魔者がいるのに個室なんて意味ねぇだろ」

私たちはカウンターに並んで座った。各々お酒を頼んで、二人の他愛のない会話をぼんやり聞いていると、いきなり檜佐木副隊長がこちらを向いた。

「で、どういう心境の変化?」
「え?」
「なんで誘いにのってくれたんだ?」

なんで、と聞かれても。それがなぜか自分でも分からなくて。毎日誘われるのにいい加減うんざりしていた。来るまで待っている、なんて言うし。予約した、なんて言うし。嫌いではない、し。

「まぁ、これからも暇あれば呑みにいこうぜ」
「…」
「お、拒否しないな」
「!」

檜佐木副隊長は私の反応を見てクスクスと笑って。おもしれー、なんて言っていてなんだか悔しい。


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