会場の中央の掲示板にトーナメント表が張り出されると、阿散井副隊長がうめき声をあげた。

「しょっぱなから九番隊かよ…檜佐木先輩に勝てる気がしねぇ…」
「おーお前には負ける気がしねぇな」

突然背後から声がして。振り返ると、黒髪で頬に刺青を入れた細身の男性が立っていた。

「うわ!いつからいたんすか!」
「まぁお前とは当たらねぇよ」
「えっなんでですか?」
「もう試合が始まるぜ。一回戦から不戦敗になっちまうぞ」
「うっわもうこんな時間か!万葉行くぞ!!横山―!!どこだー!?」

副隊長に腕を掴まれて引きずられるように連れ去られた。
「檜佐木先輩」の横を通り過ぎたとき、面白そうにクスクス笑う眼と視線が重なった。

一回戦、私と同じく今期入隊の横山くんは、不運にも席官と当たってしまい。呆気なく場外に落とされすごすごと敗退。隊のみんなに背中をバシバシ叩かれ励まされていた。
そして私の出番。
そっと左耳に手をあてれば仄かに熱をもつ制御装置があって。きっと大丈夫だと、心に言い聞かせた。


* * * *

『装置を変える?』
『そう。入隊するならある程度は力が出せなきゃいけねぇからな。今の装置のままじゃ戦えないから、制御率を3割下げる』
『3割って、どのくらい?』
『今のお前の実力なら一桁の席官くらいの力は出せるな。十分だろ』
『私は入隊しても戦う気はないよ』
『まぁそうもいかねぇんだな』
『どうして?』
『すぐに分かるさ。楽しみにしとけよ』


* * * *

阿近さんはこの行事に新人が参加必須なことを知っていたんだ。知っていたのに教えてくれなかった。全く、相変わらずあの人は…

「おいマジかよ!」

阿散井副隊長が叫ぶ声で現実に引き戻されて。何事かと、舞台を見上げるとそこに立っていたのは…

「なんで檜佐木先輩なんすか?!」
「なんだ、次鋒が副隊長じゃいけねぇルールがあったか?」

勝ち誇った顔の『檜佐木先輩』は肩を回しながら余裕な声。つまり私はあの人と戦わなきゃいけないの…?


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