六番隊隊首室。

「まだ来ないんすか?新入り」
「何度言わせるのだ…今挨拶周りをしている。終わり次第来る」
「それにしてもなんでこんな中途半端な時期に入隊なんですか?今期の入隊式から一月も経ってるのに…」

朽木隊長は何も答えず書類に筆を入れる手を止めない。この人は常に必要以上には話さない人だが、今日はいつも以上だ。
通常より一月遅れの新入隊士。何か事情がありそうなのに、副隊長である俺ですら何も知らない事情。ただ一つ聞かされたのは、特別に臨時入隊試験を受け、それに合格したということだけ。
一体どんなやつが来るのかと、興味がわいた。その時、隊首室の扉をたたく音がした。

「入れ」
「失礼いたします」


扉を開けて入ってきたそいつの第一印象は予想外。

女だった。
臨時入隊試験をパスしたなんてどんなにたくましい男だろうかと思っていたのに。隊長に一礼したその女は、俺の存在に気づきこちらを見て口を開いた。深い色の瞳から目が逸らせない。

「本日付で入隊いたしました、黒野万葉と申します。よろしくお願いいたします」
「……」
「…恋次」
「え、あっはい!…副隊長の阿散井恋次だ。よろしく」

思わず見とれて何も言えなかったが、隊長の声で我に帰り、万葉に手を差し出した。

「よろしくお願いします」

握り返された手は少し冷たくて、しかし綺麗な手だった。万葉の手が触れた瞬間、心臓がドクンと、大きく打った。



* * * *

「十三隊対向親善試合?」
「そう、各隊の代表同士の親善試合。毎年この時期に行われるんだ。ちなみに新人は参加必須」
「…私は…」
「お前は2番手の次鋒な。俺は大将」
「いや私は」
「明日一番隊の第一道場でやるから。遅れるなよ?じゃあな」
「……」

人の話を聞かない人だ…。
入隊して数日、阿散井副隊長はこまめに私に話しかけてくれる。部下思いの人なんだろうと思った。誰とも親しくなるつもりはなくて、でも親切を無下にすることもできない。中途半端な自分が嫌になる。


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