屋敷に戻り、部屋に入っていつもの窓辺に腰掛ける。綺麗な満月の夜だった。

「技術開発局はどうじゃった?」

声がして振り返ると、総隊長が戸口に立っていた。

「あそこは面白いやつらがおるじゃろう」
「…えぇ」
「皆、身の上や過去、外見など気にしない者たちばかりじゃ…自分たちがそんな理由で周りから虐げられてきた者たちじゃからの…」

やはりあそこはどこか異質な所なんだろう。でも阿近さんもあの男の子や女の子も、他の人たちも悪い人じゃなさそうだった。この屋敷の使用人たちのように、冷たい目で私を見てはいなかった。

「霊力制御装置は?」
「ピアスにしてもらいました」
「なんとまぁ…」

総隊長は目を見開いて困ったような悲しいような顔をした。

「自らの体に穴を開けるとは…最近の若者は分からんのう…」

そう言って小首を傾げる総隊長がなんだか面白くて。気づいたら私はくすくすと笑っていた。そんな私を見た総隊長も優しく笑ってくれた。

「いい顔じゃ…そんな顔は初めて見た…」
「…総隊長」
「なんじゃ?」
「私は…感謝しています。たとえどんな理由があろうと、総隊長は私を生かしてくれました。死ぬことでしか罪を償えないと信じきっていた私を生かし…おかげでこれからは、死に逃げず、生きて償いをしていくことができます」
「…償いの人生とは辛いものじゃぞ」
「構いません。忘れないと、決めましたから」
「…この満月に誓うか?」
「…はい」
「そうか…」

そなたが決めたなら、それでいい。
総隊長はそう言ってくれた。そして部屋から出て行こうとしたとき、はたと立ち止まりこう言った。

「総隊長、は…いかんのう」
「え?」
「自分の家でまで仕事をしているようじゃ。何か別の呼び名にしてはくれんか」

そんなことは失礼にならないのかとも思ったが、確かにそうかもしれない。
そしてふと、最初に対面した日のことを思い出した。あの時隊長の一人が言った言葉…。

『待ってくれよ山じぃ…』

確かそう言っていた…女物の着物を羽織った髪の長い男の人が…。

「じゃあ…山じぃでいいですか?」
「そっちの方がずっといいのう。公私わきまえずそう呼ぶ無礼な隊長もおるがの…」

そう言って面白そうに笑って、山じぃは部屋から出て行った。
空には、私の誓いを確かに受け取ったかのように、満月が悠然と輝いていた。




And that’s all…?

【月下美人】
花言葉…強い意志

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