「まぁ俺でよかっただろ。お前局長に目つけられてるからな」 「なんで?」 「お前が最初一番隊に連れていかれた時各隊長たちもいただろ。その時からお気に召したそうだ」 「…どんな人?」 「一番派手な人だ。カラフルな顔の」 「あぁ…」 「気をつけろ。局長に捕まったらまともな遺体は残らないと思え」 なんて物騒なことを…そういえば、あの時ニヤニヤと私を観察していた男がいた。阿近さんは私の左耳を消毒して、ピアスをセットした機械を耳にあてた。 「いくぞー」 「…」 カシャン、と短く音がして、鈍い痛みを感じた。 「もっと痛がれよ」 ピアスの状態を確かめながら、阿近さんはまたつまらなそうに言った。左耳は熱を持って鈍く疼いている。手鏡を渡されて、見ると少し赤く腫れていた。 阿近さんが私の後ろにまわった。キン、という音をさせて、冷たく息苦しかった首輪を外してくれていた。阿近さんが後ろから鏡を覗き込む。 「辛気臭いツラだな。赤が全く似合わねぇ」 「似合わなくていい…」 「赤が似合う女はいい女だぞ」 「…赤は血の色」 「あ?」 深い真紅はあの時見た血の色。あの色が、瞼に焼き付いて離れない。忘れられない。 血の海の中で死んでいったみんな。血に塗れた自分の手。 この手はまだ汚れている。何度洗っても、血生臭さは消えない。 穢れている…。 「それが血の色に見えるか」 私の前の椅子に座り阿近さんは煙草を灰皿に押し付けた。私はただうなずく。 「俺の眼も?」 「…初めて見たときからそう思ってた」 「なるほどね…」 失礼なことを言っているのは分かっている。でも阿近さんは怒っているようではなかった。 「じゃあお前にとって赤は戒めの色だ」 「…戒め?」 「そのピアスや俺の眼を見るたびに思い出せよ。自分のしちまったことや、死んじまったやつらのこと」 「……」 「忘れようとなんてするなよ。忘れられる訳がねぇんだ。悔やんで苦しんで、それでも忘れずにこれからもお前が生きていけば…いつかこの赤も違う色に見えてくる」 「…本当に?」 「さぁな。俺の意見だ。参考程度に聞いとけ」 |