漢数字の書かれた隊舎をいくつか通り過ぎ「十二」と書かれた大きな扉の脇をさらに奥へと進むと、他の隊舎より少し小さめの建物の近くにたどり着いた。

「話は事前に通してあります。此処より先はお一人でお入りください」
「え?」
「私は此処で待たせていただきます」

そう言って扉から少し離れた所で初老の使用人は待つようだった。有無を言わさぬ感じに反論する気も起きず、私はその扉の前へと進んだ。笠をとって、看板を見る。

『技術開発局 通信技術研究科・霊波観測研究所』

なんだかウゴウゴしている看板や呼び鈴にあまり近寄りたくはなかったけど、意を決して扉を開けた。気味が悪い叫び声が暗い室内を奥へと駆け抜けていく。
中には誰もいない。受付のような小さなカウンターが入り口の横にあるが、受付係(?)もいない。広い部屋の中央には黒革張りのソファーとテーブル。壁に沿って置かれた大きな水槽や怪しげな実験器具…。
こんな変なところで私は何をされるんだろう…。
一緒にきた使用人が何故ここに入ろうとしなかったのかが今わかったような気がする。
得体の知れない恐怖を感じ始めたとき、暗がりから、積み上げられた書類の山がヨロヨロと近づいてきた。

「…?」

よく見ると下のほうから脚が生えていて、一番上にチラチラと髪の毛が見えた。

「…あのー」
「え?わぁ!!」

声をかけた途端書類の山が大雪崩を起こした。慌てて書類をかき集め始めた人は前髪をちょんまげにした(たぶん)男の子で。私より年下に見えるけど、ここの研究員だろうか。

「またやっちゃった…怒られるー…」

書類を一緒に拾って、その男の子に渡してあげた。

「あ、どうもー」
「…あの、私ここに連れてこられたんですけど。話は通してあるって」
「?」

きょとんとした顔で私を見つめるその子は棒付きの大きな飴を口の中に頬張っていた。

「予約してきたってことですか?」
「分からないですが…黒野万葉と申します」
「黒野………あぁーッ!!」
「?!」

いきなり大声を出したから飴が口の中から飛び出して、集めた書類の上に落ちた。その子は目を見開いて私を指差したまま後ずさった。そして脱兎のごとくまた暗がりへと走り去ってしまった。


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