「刑は明日執行される」
「明日?!」
「そう、正確には今から21時間後じゃ」

そんな…明日わたしは殺されてしまうのか。あの時は、死ぬことなんて怖くなかった。覚悟を決めていた。私が死ぬことでしか償いは出来ない。だから早く死ななければと。

なのに。時間を与えられてしまった。考える時間。冷静になる時間。温かい食事と寝床を与えられてしまった。
決意は、崩れた。
今はこんなにも、生に執着している。死ぬことがこんなにも怖いだなんて。

「極刑は双極の丘で…」

死にたくない…

「…の立会いのもと…」

死にたくない…ッ

「最後に言い残すことは?」

背中を冷たい汗が伝う。鼓動は、壊れそうなほどに速い。すがるように総隊長を見上げても、総隊長は私の眼を見てくれない。
眼を見て…私を見て…!
その時、ゆっくりと総隊長の目線が動き、私の眼を真っ直ぐに見据えて止まった。

「…なんじゃ」
「……たく…い」
「なに?」
「死にたく、ない…ッ」

ギリッと、歯を食いしばる。涙が一粒、握り締めた拳に落ちた。
なんて無様だろう。なんて卑しいんだろう。
自分の犯した罪を自覚しながら、私は今、命乞いをしている。
自分の心臓の音しか聞こえない静寂が束の間続いたあと、総隊長がぽつりと口を開いた。

「…そなたは…剣は好きか?」
「…え?」
「闘いが好きか?」

真っ直ぐに私を見つめる総隊長のこの問いが何を意味するのか、私は瞬間的に分かってしまった。
幾筋もの涙が頬を伝って落ちていく。答えるんだ。早く。

「強くなりたいか?」
「……は、い…」
「…ならばわしの元で暮らすがよい」

そう言って総隊長は去っていった。
残された私は、人形のように椅子から崩れ落ち、握り締めた拳を床に付いた。

「う…あぁ…あ……ッ」

涙が止めどなく溢れ、嗚咽がもれる。
嘘をついた。
もう闘いたくなんてなくて。あんな剣は握りたくもなくて。
それでも私は嘘をついた。あの人に逆らえば死は免れない…。

あの人の庇護の元で暮らすために。汚らわしい殺人者の私が、浅ましくも生き残るために。

…わたしは嘘をついた。



And that's all…?


【Moonflower】
和名…夕顔(ヨルガオ)
花言葉…「罪」


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