一番隊隊舎。

「その場に五回生の実習隊が行っているというのは本当か?」
「座軸は一致しています。また、先ほどから引率のものと連絡が途絶えています」
「なれば可能性は院生か…先遣隊は?」
「すでに向かっています」

杖に置いた手の甲に額をつけ、うつむく。しかしその眼は油断なく冷たい光を宿していた。

「…来るべき時が来た、か…」
「…千年…もはや消えたものかと…」
「一千年間忘れたことなどなかったわ…いや、策は万全じゃ。頼むぞ」
「はっ」

雀部が素早く下がり、隊首室にはつかの間の静寂。しかしそれも長くは続かないだろう。先遣隊はもう現地に到着している。
うまくすれば標的を捕縛し、ここへ連れてくることだろう。
忘れようともがき、それでも心の奥底に居座り続けた記憶が首をもたげる。
千年の時を経てもなお、自分は恐れている。
手の骨筋が浮き上がるほど、強く杖を握り締めた。行き場のない感情が声となって溢れる。

「…なぜじゃ……ッ」

なぜ、また現れた……・・・――




* * * *

静かだった。一体どのくらいの間、意識を手放していたんだろう。いつから記憶が途切れたのかも思い出せない。
とにかくとても疲れていて、だるくて、眠くて、寒くて。目も開けられないまま時が過ぎていった。どうして自分はこんなところで寝ているのだろう。
今日は現世で対虚戦闘実習で、みんなで現世に来て、虚と戦って……

それから?

『何も覚えていないのか?』

…だれ?

『俺は俺だ ずっとお前と一緒にいただろう?』

知らない…あなたなんて知らない。どこにいるの?どこから話しかけているの?

『お前の中に俺はいる 俺たちはひとつだ』

わからないよ…。ねぇ、わたし、疲れたの。もっと寝かせてよ…

『そりゃ疲れただろうさ』

頭が割れそうに痛い…どうしてこんなに疲れているんだろう…

『見ろよ』

なに?

『全部 お前がやったんだ』

なに、を…?

ゆっくりと重いまぶたを持ち上げる。その眼に写った光景は…光景は、とても信じがたいものだった。
なんなの、これ、は……?

倒れていた。一人残らず。全員。みんな、みんな、倒れていた。
誰ひとり動かない。みんな、血だらけだ…。
物音ひとつしないのはこのひどい耳鳴りのせいだろうか。

肘をついて、なんとか上半身を起こす。手をついたそこは血だまりで。
いやここだけじゃないんだ。全てが。
全てが、血に覆われていて。
一面の血の海。こういうことを言うんだ。

「…みん、な…なんで…どうしたの…?!死んじゃったの?!」

声がうまく出せなくて。最後は悲鳴のようだった。


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