「あ?采絵が帰ってきた?」

書類を持って阿近さんの研究室に来た鵯州さんが口にした見知らぬ名前に、阿近さんが怪訝な声を上げた。

「阿近、知らなかったのか?」
「聞いてねぇよ。いつ?」
「昨日、いきなり」
「何年ぶりだ?てっきり予算握ってトンズラしたのかと…」
「そうならないために、アイツにはきっちりした部下つけてるんだろ」
「奴らも一緒に帰ってきたのか?」
「もう科長と旅には出たくない、って泣いてるよ。同情するよな」
「…あのー」

采絵さんって、誰ですか?
私の質問に、二人は「あー」と納得した声を出した。


* * * *

「研究素材…捕獲?」
「研究素材捕獲科科長、采絵(トルエ)。そういえばお前はまだ会っていなかったよな」
「そんな科があることも知りませんでした…」
「真白が来る少し前から研究素材探しの旅に出て、それっきり行方をくらまし音信不通」
「それがいきなり昨日ひょっこり帰ってきたというわけだ」

そんなに長い間連絡もなしに旅をしていたなんて…一体どんな人なのだろう?心なしか、采絵さんの話をする二人の顔が曇っているのは気のせい?
すると阿近さんが神妙な表情で重々しく私に言った。

「…真白、くれぐれも采絵には気をつけ…」
「たっだいま〜」
「うわ、来た」
「うわとは何よ鵯州。あこ〜ん、久しぶりね。相変わらず目つき悪いわ」
「…お前も相変わらずのようだな」

遅かったか、と呟きながらがっくりとうなだれていた阿近さんは諦めたかのように、勢いよく扉を開けて入ってきた采絵さんに挨拶した。


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