重い瞼を開くと、見慣れない天井が見えた。
しばらく瞬きを繰り返し、あぁ、阿近さんの研究室だと気づく。
いつの間に眠っていたんだろう。阿近さんのデスクの上の、デジタル表示の時計を見るとまだ時刻は夕刻。そんなに長い間眠っていたわけじゃないみたい。

ついさっきのことだ。
阿近さんにすべてを知ってもらった。受け入れてもらった。
声を張り上げて泣いてしまいたい。それくらい、嬉しい。
嬉しくて、…つらい。

いつか話そうとは思っていた。そのいつかは、私が此処を去る時だと決めていた。局長の研究が終われば、私が此処にいる理由はなくなる。
終わった後は、検体にされるか、いいところ全身ホルマリン漬けかな。いや、局長にとってはこの二つの眼をコレクションにできるだけで十分なのか。

私が此処に来て、阿近さんと出会って、恋をして、愛して、愛された。
全てはこの大嫌いな金色の瞳のおかげだと思えば、心底憎むこともできない。

阿近さんはこの眼を綺麗だと言ってくれた。
私は消えて、この眼だけでも阿近さんがいる此処に残るなら、それでもいいと思った。

「…もうきっと、私は一生分幸せだったから…もう、いいよね…」

言い聞かせるように呟いた言葉が、誰もいない研究室の薬品臭の中に消えていった。
私も、消えてしまえたらいいのに。この幸せを抱きしめたまま。

しばらくそのまま天井を見上げていると、阿近さんの気配を感じたので、起き上がってドアを見つめた。
局の外では意識的に霊圧を少し上げて他を遠ざける阿近さんは、逆に局内では霊圧を極限まで抑える癖がある。

だから私は、他の部分で阿近さんを感じ取る。
微かに感じ取れる、ほんの少し金属質のような鋭さを感じる霊圧。ゆっくりと、少し踵を床に擦りながら歩く足音。扉の前で立ち止まり、くわえていた煙草を最後に深く吸って、携帯灰皿に押し付ける。パチン、と灰皿を閉じる音。
少し俯き気味に、白衣のポケットに片手を入れてドアを押し開ける様はいつも同じ。


「阿近さん」
「…起きたか」

阿近さんは私が座るソファに腰掛けた。



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