* * * *

体温が気持ちいい。私が子どもなのか、阿近さんの体質なのか、阿近さんの体温は私より少し低い。でも、温かい。
なぜだろう?
火照った顔に触れる指先が余計に温度差を感じさせる。さらさらとした大きな手が頬を撫でるのは気持ちいい。目を閉じると、さらに安堵感が体中を満たした。

指先よりも柔らかく、すこし湿ったものが頬に触れる。一瞬後に、唇だと気づく。
阿近さんの唇が目尻にたまった涙を掬い取る。流れる涙の後を追うように、唇が滑る。
瞼、頬、顎のライン。
少しずつ降りていくように撫でられるその感触に、涙の波も引いていった。

心地よい速さで打つ心音を感じていると、阿近さんの唇が首筋をついばむように吸って、心臓が一拍すっ飛ばしたような気がした。

反射的に強張る身体。一転して上がる心拍数、乱れる呼吸。
何が起きているのか分からず、目を開けても阿近さんの顔は見えない。

さらに、唇よりも柔らかく熱いものが首筋を撫でる。

瞬間、体がびくん、と跳ねた。


「…っ、ぁ」

微かに漏れた声に耳を疑う。
今の声、なに…?

阿近さんの手が、首元から肌と着物の間を裂くように入ってきたとき、たまらず声をあげた。

「あ、阿近さんっ」
「ん?」
「な、涙…そこまで、流れてない…」

少し露になった鎖骨のあたりに顔を埋めていた阿近さんが私を見上げる。
いつも私が見上げる方だから、なんだか変な気分だ。

そして、あ、あれ?私はいつの間にソファに半分押し倒されているの…?



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