* * * なぜ真白を技局に入れたんですか?真白が来て間もない頃、一度局長に聞いたことがある。 「あいつは面白い女だヨ」 局長の答えはその一言に尽きた。(解剖真っ最中に聞いたのが悪かったか…?) 面白い女…。局長の考える「面白い」は意味が違うような気がする。 真白はとても優秀だった。頭がいい。戦闘能力もある。 「なぜこんなところに?」俺は尋ねた。 言っちゃ悪いが、技局に入りたいなんて余程の狂人でなければ思わないだろう。 「技局に入りたかったんです」 真白はただそれだけ言った。変わった女だ。こんな所に自ら足を踏み入れるなんて。 * * * …真白は本当に変わった女だ。今まで会ったどの女とも違う。 真白は、俺を怖がらない。初めて会ったときから、俺を恐れていない。 …笑っているんだ。 俺を前にして、この女は微笑んでいる。笑顔で俺と向き合っている。 くだらないことですぐに話しかけてくる。とてとてと俺の後ろをついてくる。ノックもせずに勝手に俺の研究室に入ってくる。一緒に昼飯を食おうと言う。 その全ての行動の中に、恐れや緊張、嫌悪の表情は無い。あるのは、柔らかくあたたかい微笑み。 なぁ、お前は一体なんなんだ?どうして俺が怖くないんだ? 「………?」 「どうして笑っていられるんだ?」 「阿近さん、怖くなんてないじゃないですか」 どうして心底不思議そうな顔してんだよ…。 「…怖くない?」 「だって、阿近さんは優しいです」 そんなことを言われたのは初めてで。 何も言えなかった。ただ、胸の奥が熱くなった。 きょとん、とした顔で見上げてくる真白を、直視することが出来なかった。 この気持ちを伝える術を、俺は知らなかった。 『ありがとう』 この胸の高鳴りを、人はなんと表現するだろう。 『君が好き』 And that's all? 2010.01.05 |