「どこに行っていたんですか?」 「…局長に、ちょっと聞きたいことがな」 「私のことですよね」 阿近さんの視線が、床の一点を見つめて固まる。阿近さんが隠そうとしているのに、こんな言い方は残酷だ。 「私、わかってますよ。局長が私を招き入れたのは、私を研究対象として見ているからだって」 「…そうか」 「いろいろ聞かれましたし。親族関係とか。簡単な検査、心理実験…アイヒマンテストとか、薬物投与とか、いろいろと」 「…局長の研究は終わったそうだ」 「そう、ですか」 言葉は感情とは真逆に淡々としたリズムを刻む。局長の研究は終わった。 じゃあ、残された時間はあとどれくらい? 「局長は、これからも真白が局にいてもいいと言った」 「…え?」 「お前、局長の研究が終わったらここを出て行くつもりだっただろ」 「…なんで…」 「させないからな。だいたい局長自らここにいることを許したんだ。出て行く理由はないだろう」 「…私、これからも、ここにいていいんですか…」 「…俺が、真白にいて欲しいんだ。これからも、ずっと」 私が泣くと阿近さんはきっと困る。そんな態度を表に出されたことはないけれど、それは阿近さんが優しい人だからだ。さっきから泣いてばかりで、泣きたくなんてない、阿近さんを困らせたくない。 泣くな、泣くな。 そう強く言い聞かせても、止めることなんてできなかった。 溢れ出る涙は大粒の滴となって落ちていく。 |