最初のうちは、突然のことで混乱しているのだろうと思っていた。少し時間が経てば落ち着いて考えられるようになるだろうと。
…が、未だに真白は俺を避けている。四六時中俺の研究室に入り浸っていた数日前とはえらい違いだ。まだ入ったばかりで、自分専用の研究室を与えられていない真白が何処にいるのか最初は見当も付かかったが…。どうやら鵯州やリンのところに行っているらしい。

…正直なところ、真白に避けられるのは結構きつい。最初の頃は、俺になついて近づいてくるあいつが疎ましかったのに。いつの間にかあいつは俺の生活の一部になっていた。こんなにも短い期間で、あいつは易々と俺の心に住みついちまったんだ。

真白が隣で見学していると、気が散って実験がはかどらなかった。書類整理をしていても、あいつが俺の傍で危なっかしく実験をしていて目が離せず、ちっとも筆が進まなかった。昼飯も、あいつが毎日毎日悩むもんだから俺までゆっくり食えなくなった。

なのに。なのに今では、
真白が横で矢継ぎ早の質問を投げかけてこないと実験が上手くいかない。あいつの勘に頼った天然丸出しの実験をはらはらしながら見て、小言を言えないのがつまらない。一体どうやったのかは分からないが、実験が成功したときの真白の嬉しそうで誇らしげな笑顔を見たくて堪らない。あいつが食堂のメニューと真剣ににらめっこしている横顔が懐かしい。
真白の声が聞きたい。笑顔が見たい。
傍に、いたい。

こんなのは俺らしくない。俺が一人の女に入れ込むなんて。分かっちゃいるが、どうすることも出来ないぐらい、真白は俺の心を捕らえて離さない。

真白に気持ちを伝えて、得たものはゼロ。得るどころか、失った。
…だが後悔する気はさらさらない。伝えなければよかったなんて女々しいことは考えない。だって俺は言ったじゃねぇか。『俺のこと好きになれ』って。後悔なんてするのは、まだ早い。

あいつにあんな態度をとられ続けているのもそろそろ限界で、正直つまらなくて。だから俺はあんな行動をとってみたのだろう。



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