少し睨みをきかせてやるとへたれな子犬は一目散に逃げていった。やれやれ…。
煙草に火を付け、研究室に帰る。扉を開けると人の姿は無い。…が、気配と霊圧がある。

「…真白?」

ビクッ…と小さな背中が跳ねる。

「なんでそんな隅っこに居るんだよ」

俺を見て、隅っこの椅子から立ち上がりあたふたと隠れ場所を探している(らしい)真白。…がしかし、余計な物を置いていない俺の研究室に隠れ場所なんてほとんど無い。

「何してんだお前」

どうやら俺が唯一の出入り口である扉の前に立っているから逃げたくても逃げられないらしい。おろおろと右往左往する真白を眺めながら煙草をふかす。

「褒めてたぞ、お前の作品」
「…へ!?」
「お前が作った義骸。すごいってさ」
「…あ…あの…そんな…」
「俺でもすごいと思うよ。写真だけであんないい仕事する自信は俺にはねぇな」

俺が人を褒めるなんて珍しい。しかもこんなにも直球で。もしかしたら初めてかもしれない。自然と顔が微かに笑ってしまっているのが分かる。真白の前だとどうも顔の締まりが悪い。気持ち悪ぃな俺。

「さすが俺の助手だな」
「……ッ」
「あっちょ、おい…真白!」

また逃げられた…。扉の前から移動し始めていた俺の横をすり抜けて、真白は研究室から走り去っていった。


…このところ真白とまともな会話をしていない。というか、してくれない。原因は分かっている。

ほんの数日前。

「真白も俺のこと好きになれよ」
「……へ?」
「だから、俺のこと好きになれって。片思いはする気ねぇんだから」
「なっ何を言ってるのですか阿近さん!?」
「俺は真白が好きなんだけど」
「…っ!」

…我ながら俺様なセリフだと思う。が、言っちまったもんはしょうがない。その時は、考えることなんて出来ずにただ思ったことが口から出たんだ。
その告白のような、命令のような俺の言葉を聞いてから、真白は俺が近づくと顔を真っ赤にして硬直し、話しかけようものなら脱兎のごとく逃げ出してしまうようになった…。


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