男性死神協会と女性死神協会の定例会議。…と、言われて連れてこられたのは、ただの飲み屋だった。これじゃただの飲み会だろう。
そもそも理事でもない班目と綾瀬川までいやがるし、ますますただの飲み会だ。
「阿近がいるっていうから来た」、「一角が行くって言うからついてきた」と言って、両サイドに座られてしまって居心地が悪い。
さらに目の前に座る荻堂が、さきほどから微笑みながらこちらを見ている。しばらく無視していたが、気づいているのかいないのか、というか気にしていないのか、あまりにもしつこく見てくるので、いい加減嫌気が差してこちらから声をあげるしかなくなった。

「…なんだよ」
「いや、別に何も?」
「じゃあなんでニヤニヤこっち見てんだよ」

ニヤニヤなんてひどいなーと悪びれず言いながら、荻堂は目線を座敷の一番奥に向けた。そこでは女死協メンバーが固まっている。松本副隊長と砕蜂隊長に挟まれて、真白が座っている。

「真白ちゃんって、やっぱりいいですよね」
「…は?」
「おいお前消されるぞ」
「殺されるじゃなくて消されるってところがリアルだね」

微笑みながらこちらを挑発するようなセリフを吐く荻堂に、斑目と綾瀬川が会話に入ってきた。以前檜佐木が言っていたのは、俺を理事に入れるための嘘ではなく、本当だったということか。思い切り睨んでやっているのに荻堂は臆することもなく、「かわいいじゃないですか、真白ちゃん」と続けた。それに綾瀬川が同調する。

「まあ確かに美しいよね。ちょっと薄幸系だけどね」
「でもあんな純真そうな女が、お前の変態プレイについてこれんのか?」
「誰が変態だ」
「変態かどうかは知らないけど、技局の阿近といえばかなりの玄人だって噂は多いよね」
「どこの噂だよ…」

本当にどこの界隈でそんな噂が出回っているのか、わからないが確かにそんな噂は本人の耳にまで届いている。まったく迷惑な話なのだが、昔の自分の行いが招いた結果でもあるから、始末に負えない。荻堂の隣に座る檜佐木も会話に入ってきた。

「俺、昔阿近さんの研究室の窓から妖艶なお姉さんが出入りしてるのよく見ましたよ」
「檜佐木、お前は俺のストーカーか?」
「偶然見ちゃうんですよ何故か!しかも、いつも違うお姉さん」
「マジかよ。なんでこんな陰気な男がモテるんだ?一体どんな技使ってるんだ?」
「昔の話だ」
「確かに。最近あまり噂を聞かないと思っていたら、本命ができてたんだね」

テーブルに頬杖をついて、グラスの氷を回しながら綾瀬川は座敷の奥に顔を向け、真白をじっくりと見つめている。

「あれが技局の阿近の女か…意外なタイプだね。面倒事は好まなそうなのに」
「面倒事?」
「気を悪くしないでよ阿近さん。一般論さ」

ひら、と手を振りながら綾瀬川は言った。はぐらかしても、何を言いたいのかはわかっている。そんな相棒の軽口を理解してない斑目が首を伸ばして真白を無遠慮に見ながら言った。

「まあ確かに可愛い顔してるが、俺はもっと色気のある女がいいな」
「斑目三席、わかってないですね。あれは着痩せするタイプですよ」
「おいやめとけ荻堂。消されるぞ」
「小柄なのに胸とかお尻とか張ってるギャップがいいんですよ」
「お前本当そういうとこだぞ!」
「ちょっと阿近さん痛い痛い、霊圧抑えて」
「阿近さんの霊圧痛いんすよ刺さるんすよ!!」


* * * *

「…松本副隊長」
「乱菊でいいわよ」
「ら、らんぎく、さん…」
「まぁそれでもいいわ。なぁに?」
「あの、先日のご質問の答えなのですが」

たぶん、ものすごく緊張しながら、意を決して話しかけてきたのであろう真白を観察しながら、質問?質問ってなんだっけと考える。もしかしてあれかしら、この間のお茶会の時に何気なく訊いた…『阿近さんのどこがいいの?』

「阿近さんは、とても素敵な方です」
「あんな気難しそうな男、一緒にいて疲れないの?」
「阿近さんといると、とても落ち着きますよ。すごく優しくて、あったかい人なんです」

数日前の質問を今になって答えてくる。やはり、この子は少し変わっている。
感じていることをそのまま言葉に表す。普通は恥ずかしさとか遠慮とかが伴ってうやむやにするところをストレートに話してくれる。
普通の女の子とは少し違う。この子の境遇がそうさせるのだろうと思うと胸が少し痛むが、そんなこの子のことを私はなかなか気に入っている。

「技局の阿近といえば、冷酷とか残酷、人嫌い、一匹狼…そんな噂ばかりだけどね」
「阿近さんって、そんなに変わっていますか?」
「まぁなんて言うか…強いていうなら、私より席次が下でも「さん」付けさせる雰囲気を持つ男なのよ。私に対しては上官だから当然丁寧に接してくれるけどね」

でもそういえば、この間初めて真白に会いに阿近さんの研究室に押しかけたときはちょっとおもしろかったかも。平静装いながらも明らかに挙動不審だったし。

「ねぇ、普段どんなことしてんのよ。阿近さんってすんごいって噂きくけど本当なの?」
「すんごい…な、なにが?」
「もーとぼけちゃって。こんないいおっぱいしてるくせにぃ」
「きゃぁぁ!?」

がし、とつかんでみたら、あらやっぱりいいおっぱいしてる。女の手には余りある、でも男の手には程よく収まるであろう絶妙な大きさ。私が言うのもなんだけど、大きければいいってものじゃないからね。初心な反応が面白くって両手で揉んでやったら「ひゃぁあ!?」と本気で逃げようとする。あらあら、もしかして本当に初心なのかしら?と、その時頭上から白い腕が私と真白の間にすっと入ってきた。

「松本副隊長、あまりからかわないでくださいよ」

阿近さんの手が、真白の胸を掴む私の手を軽く払った。本当に軽く、触れるか触れないかの力で。

「あら。女子の戯れなのに、いいじゃない」
「勘弁してくださいよ。こいつ、そういうの慣れてないんで」

そつない言葉。揺るがない無表情。ついさっきまで、向こうの隅の方で攻撃的な霊圧を放っていたというのに。大方、真白絡みのことで男どもが調子に乗ったというところね。しかしまぁ霊圧操作の巧いこと。女死協たちが座る方にはほとんど害を出さない卓越した霊圧制御能力。ついこの間まで七席におさまっていた男だというのに。

「俺もう帰るけど」
「あ、じゃあ私も、」
「気にしなくていいぞ」

そう言いながらも、帰り支度を始める真白を見下ろすその表情はやわらいでいる。…わっかりやす。意外と普通の男なのかしら。

「お先に」
「はーい、またね。真白、阿近」

自然に寄り添い、しかし意図的に自分の身体で真白を男どもの目線から隠しながら去っていく阿近に真白は気づいていない。あんなに独占欲、所有欲丸出しなのにね。そして阿近の方は、私が呼び捨てにしても気づかない。そもそも今までなんて呼ばれていたかなんて覚えてないのだろう。周りなんて見えてない。もしかしたら少し異常ともとれる不可侵のふたりの関係。




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