瀞霊廷、七番隊舎。
その隅にある男子便所。

しかし今はその表示の上に達筆な太文字で「男性死神協会本集会場」と書かれた貼り紙がされている。

時折現れるこの表示に、七番隊の死神は慣れたもので、この表示があるときに用を足しに来るものは誰もいない。

「なにぃ?!女死協が技局から研究員を引き抜いたやとぉ?!」

中から聞こえる自隊の副隊長の大声も日常茶飯事で、もはや気にする者もいない。
中では、七番隊副隊長·射場鉄佐衛門に、三番隊副隊長·吉良イヅルが報告をしている。

「その女に新型伝令神機開発を依頼し一儲けしようと画策しているとのことです!」
「わしらが考えた作戦と全く同じ…おのれ女死協!」

悔しさに体を震わせながら、射場は拳で床を殴りつけた。
『男性死神による男性死神のための漢・伝令神機』…今度こそは女死協を出し抜き、男性死神協会の地位向上のために資金獲得を、と三日三晩考え抜いた企画だった。

「檜佐木ぃ!勧誘は?!奴はまだ首を縦にふらんのかぁ!」

同会理事の九番隊副隊長·檜佐木修兵は憧れの広島弁を使いたくてしょうがないらしく、嬉々として大声で答えた。

「はい!再三お願いに上がっていますが、頑として受けてくれませんじゃけぇ!」
「広島弁やめろ!こうなったらワシが直談判じゃあ!」

さすが会長!と盛り上がる男死協メンバーをその場に残し、伊場は勢いよく走り去った。



* * * *

同じ頃、技術開発局の中央に位置する共同実験スペース。そこにある楕円形の大きなテーブルを囲んで、技術開発局の主要メンバーが集まっていた。

「えー、というわけで…」

副局長の阿近が資料を片手に暗い声で話し始めた。

「今期の予算も前年比5%減となっています。より一層の節約が必要な訳ですが、各科への配当を決めたいと思います」

技術開発局の予算は決して潤沢とは言えない。研究開発にはとにかく金がかかる。かかるが、必ずしも上が求める結果を出せるわけではない。結果が出なければ、予算は減らされる。

「私が考案した新アイテムの開発費に局全体予算の70%を要望するヨ」
「えー、事前に各課から提出してもらった予算計画書を元に、これからプレゼンをしてもらうので…」
「阿近、私の計画書が皆に配られていないようだヨ」
「隊長の計画書は、俺の方で破棄させてもらいました」
「何故」
「隊長の個人研究予算は昨年度から1割減です」
「だから何故!」
「隊長のせいで今年も予算減らされたんです、2割減にしなかっただけ感謝してもらいたいです」

ただでさえ隊長兼局長の涅マユリが自分の研究に好き放題に金を使ったり、上層部の逆鱗に触れるような非人道的な実験をしていることがバレたり、とにかく常に財政状況は厳しい。
副局長の阿近が実質的な責任者として、火の車の技局の台所事情にいつも頭を悩ませている。貴族や資産家にスポンサーを頼んだり、護廷十三隊の一般隊士に技局で開発したグッズを非公式で販売したり…(これもまたバレると困ることなのだが…)

「とにかく金が無いんです。隊長のワガママは通しません。はい、じゃあまず通信技術研究科から…」

キーキーと喚くマユリを無視して阿近は淡々と進行していく。

「最新式レーダーの導入費用上乗せを…」
「科内で精度アップグレードしろ。前年並みで計上っと…はい次、研究素材捕獲科ー」
「現世滞在費の増額を…」
「さっきセールのチラシ見てたよな。捕獲科は出張自粛、一割減な」

課長たちのプレゼンをバッサバッサと切り捨てていく阿近。ぶーぶーと非難轟々の声も意に介さない。


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