* * * ネムさんが放った検体捕獲用の投げ縄から、リンの助けを借り、なんとか抜け出し、扉を開こうとしたが、案の定中から鍵がかけられていた。 やられた。ネムさんが加担しているならもっと警戒するべきだった。 外部の人間を勝手に俺の研究室に…しかも真白に会わせるなんて。 真白だって自分の意志で動けるのだから、まずい状況になれば自分で外に逃げ出してくるだろうとは思うが…。 ネムさんだって、あいつには無茶はしない…はず。 一体何を企んでいるのか。扉に耳をそばだててみたが、話し声は聞き取れなかった。 どうすることもできず、扉の前で煙草を吸いながら待つ。 吸い続けた煙草が5本目にさしかかったところで、中から鍵をあける音がした。 扉が開き、ネムさんがひとりで外に出てきた。 「ネムさん、やってくれましたね」 「お怪我はありませんか阿近さん。マユリ様の新作です」 「俺で試すのはやめてください。一体なんの話をしていたのですか」 ネムさんに詰め寄る。 表情ひとつ変えないこの人は、長い付き合いでも今ひとつ掴みきれない。 「真白さんに女死協から依頼です」 「ネムさんが間に入ればいいでしょう。いきなり外部の人間をあいつに会わせるなんて…」 「お二人には先に、真白さんのことはお話しておきました」 「はい?」 「真白さんの金眼のことはお話してからここに来ました。そうしなければ、お二人が真白さんを見て良からぬ反応を示し、真白さんが悲しむかと思いましたので」 淡々とネムさんは言った。 真白のことを気遣ってくれたらしいその行動が、ネムさんらしくなくて意外だった。 真白が悲しむだなんて、人の感情に無頓着そうなこの人が。 この人はこの人なりに、真白のことを気にかけてくれているのかもしれない。 「ですが、必要なかったかもしれません」 ネムさんがそう言った直後、再び扉が開き、二人の副隊長がスタスタと俺の横を通りすぎていった。 「あ、阿近さんお邪魔しました〜またよろしくね〜」 「またねーあっくん!真白ちゃん!」 「…また、って?」 またって、また来るのか? 困惑してネムさんを見る。 「弱い者は、自分より弱者を作り上げ、蔑み、自分の地位を上げることで安心感を得るのです。それしかできないのです。副隊長という立場である彼女たちは強い。戦闘能力だけでなく、人として心が強い。だから、私や阿近さんの心配は杞憂でした」 そう言うとネムさんは微かに微笑んで、静かに局の暗がりへと消えていった。 そういえば局長も以前そんなことを言っていたな、と思い出した。 研究室に入ると、真白はこちらに背中を向けて、作業台の前に座っていた。 |