* * *

「あーっくん!!あーそーぼ!!」

突然外から聞こえてきた無邪気な声が、局中に響き渡った。
珍しく眼鏡をかけてモニターに向かい、打ち込んだ細かな数字を目で追っている最中だった阿近さんは、ズルッと椅子から半分落ちた。

「…まーたあのちびっ子か」
「草鹿副隊長ですね」

阿近さんと草鹿副隊長のやりとりにはいつも笑ってしまう。
阿近さんはどうやら彼女のことは苦手なようなので、依頼品の受け渡しを頼むのはちょっとかわいそうなのだけど。
小さな女の子をかたくなに拒絶する珍しい阿近さんを見られるのが面白いのだ。
思い出して、書架の陰でクス、と笑ってしまったら、阿近さんに軽く頭を小突かれた。

「面白がるな」
「ふふ、だって…わっ!ごめんなさいごめんなさい!」

書架の間のせまいスペースに追いやられ、壁に両手を押し付けられてしまった。
至近距離に迫る紅い眼が危険な色をはらむ。

「俺があのちびっ子を苦手と知っていながら、いい度胸だなコラ」
「ひぁっ?!阿近さん、な、舐め…?!」
「お仕置き…」

阿近さんの舌が首筋を撫でる感触に驚いて体が跳ねる。そんなことはお構いなしに、熱くて柔らかい感触が耳たぶをくすぐった。

「阿近さん、くすぐった…ぁ、」
「…くすぐったいじゃなくて、いい、って言うの」

そんなこと、言えません…。
まだまだ慣れない感覚に体の力が抜けていく。
私の両手首を押さえつけていた阿近さんの手の力も緩んでいったので、すがるように背中に両腕を回した。

「…なに、誘ってんの?」
「ちが、う…っ」

阿近さんが満足げに笑む。貴重な眼鏡姿も相まって、いつも以上に素敵だな、と思った。
阿近さんの大きな手が私の後頭部を軽く掴んで上を向かせられ、阿近さんと正面から見つめ合う。
私は反射的に目を閉じて、阿近さんの吐息を間近に感じた瞬間、勢いよく扉がノックされた。

「あっくーん、いないのー!?」

ビックリして目を見開いたら、目の前で阿近さんも静止していた。

「忘れてた」

そう言って、阿近さんは私の前髪を軽く分けて、おデコにキスをした。
瞬く間に起きた出来事で、きっと真っ赤な顔をしている私を見て、く、と微かに笑い、阿近さんは扉を開けに行った。



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