黒→(←)黄


「青峰っち!1on1して欲しいんスけど!」

「お前勝てねえのによくやるな」

「今日こそ勝つっス!」


部活後に二人が1on1をするのは最早当たり前の光景。毎日持ち掛ける黄瀬くんも黄瀬くんだが、文句を言いながらも結局は相手をしている青峰くんも青峰くんだ。
黄瀬くんがバスケ部に入ってから既に三か月ほど経ったが、黄瀬くんは瞬く間に強豪である帝光中バスケ部のレギュラー入りを果たした。彼の驚異的な成長力は、他の部員達にも認められてきている。


「黄瀬くん」

「黒子っち!どうしたんスか?」


1on1を始める前に靴紐を結び直す黄瀬くんに控え目に話し掛けると、眩しいほどの笑顔で振り向いてくれた。黄瀬くんは何故か僕に非常に懐いてくれているのだ。


「終わるまで待ってますから、一緒に帰りませんか?」

「え!い、いいんスか!?」

「黄瀬くんさえ良ければ」

「いいに決まってるじゃないっスか!」


黄瀬くんが承諾してくれるのなんて訊かなくても分かっている。青峰くんとの1on1を始める前は毎日僕に一緒に帰ろうと誘ってくれていたのだから。しかし流石に1on1をしている間待っていて欲しいとは言えなかったようで、1on1を始めてからは僕を誘わなくなった。それでも僕が帰ろうとすれば、一瞬何か言いた気な顔をしてから、また明日、と手を千切れんばかりに振ってくれるのだった。黄瀬くんは分かりやすい。人間観察が趣味の僕には黄瀬くんの言わんとしていることが手に取るように分かる。彼は僕に待っていてと言いたかったのだろう。僕としては一向に構わないのだが、黄瀬くんから言われるまでは黙っているつもりだった。しかし、黄瀬くんがなかなか言い出してくれないので僕は今日、自分から黄瀬くんを誘った。



そういえば1on1をする二人をちゃんと見るのは初めてだ。彼らの試合を見ることはあっても、天才的な強さを持つ彼らの一対一の勝負など誰が見たことあるだろうか。
実際彼らの1on1は想像を絶する激しさだ。まだまだ余裕とでも言うように黄瀬くんを翻弄する青峰くんは楽しそうだ。それに対してどこまでも食らいついていく黄瀬くん。青峰くんがどこまで突き放しても決して諦めない。また、強くなっている。黄瀬くんも、青峰くんも。
荒々しくも確実にその強さを周囲に知らしめる青峰くんのプレイは雑に見えても何処か魅了されるところがある。黄瀬くんが青峰くんのプレイに憧れるのももっともだ。

「今日もオレの勝ちー」

「あー!もう!明日は勝つっスからね!」

「それ毎日言ってんじゃねーか」


いつの間にやら二人の1on1は終わっていた。いつも通り青峰くんの勝ちだ。黄瀬くんは青峰くんに最早お決まりとなった(らしい)捨て台詞を吐いてから、急いで帰る支度を始めた。


「珍しいなテツ。待ってるなんて」

「そうですね。初めてです」


あー疲れた、とか言いながらしゃがみ込む青峰くん。


「黄瀬くん、強くなってますね」

「あー?まだまだヒヨッコだろ」


そんなこと言って、黄瀬くんのプレイに動揺した場面もいくつかあったくせに。勿論、黄瀬くんが青峰くんに勝つにはしばらくかかるだろうけれど、入部当初とは比べ物にならないほど強くなった。それに、


「楽しそうでしたよ」


青峰くん自身が黄瀬くんとのバスケを楽しんでいた。まだまだ本気を出せるわけではないけれど、きっと一回の1on1の中でどこまでもレベルアップする黄瀬くんが新鮮なのだろう。


「黒子っち!お待たせ!」


着替えを終えた黄瀬くんが走ってきたので、青峰くんに挨拶して別れる。


「黒子っちと一緒に帰るの久しぶりっスね」


にこにこしながら僕に話し掛ける黄瀬くんはついさっきまであんなに激しいバスケをしていたのに疲れた顔一つしない。


「今日黒子っちが誘ってくれて本当に嬉しかったんスよ!正直言うと黒子っちと一緒に帰りたかったんスけど、毎日待ってもらうなんて悪いし…」

「別に構いませんよ」


僕も黄瀬くんと一緒に帰りたいですし。そう言うと黄瀬くんはあからさまに動揺して、暗くてよく見えなかったが心なしか頬を染めたように見えた。


「えっと、あの、黒子っち?じゃあ…これからも一緒に帰ってくれないっスか…?」

恐々と慎重に尋ねてくる黄瀬くんがいじらしくて思わず笑みがこぼれる。普段は自分の気持ちを真っ直ぐぶつけてくるのに、僕の意志を伺うときはどこまでも臆病になる。


「勿論」

「やった!黒子っちありがと!大好きっス!」


ああほら、また。黄瀬くんは僕を大好きと言うけれど、それは敬愛とか友愛とかそういう類の意味しか乗せていないでしょう。
今日、二人の1on1を見て思い知らされた。
黄瀬くんは向日葵だ。ただひたすら太陽の方を向いて必死に伸びていく。太陽はどんどん強い光を向日葵に与え、成長を促す。それでも太陽は自身に触れさせることは決してない。向日葵はその眩しすぎるほどの光を求め、太陽の見える空を目指すのだ。地面に張り付き、向日葵の葉の下に淀む影の存在など気付かれるはずもない。
それなのに向日葵は自身の頭が重くなったら影のある地面を向く。それまでずっと太陽へ向けていた花の部分へと地を這っていた影を誘う。
どんなに僕が恋い焦がれても気付きもしないのに、必死に自分を押し込める僕に束の間の期待を与える。時が過ぎればまた目を背けてしまうくせに。わかっているのにその一時にどうしようもなく単純な僕は押し込めた気持ちを再び手繰り寄せてしまうのだ。



いっそのこと、秋になって枯れ果ててしまえばいいのに。





end

------------------------------

黄瀬くんが憧れる青峰に嫉妬する黒子っち。光と影は決して同じにはなれない。


20120623




「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -