呼吸をやめてしまいたいな、とふと思う事がある。

分厚い硝子の壁の中、私は誰よりも清浄な空気を吸い、吐き出すのが勤めだ。此処には何もないけれど私が存在するだけで全てに意味が生まれるのだそう。不思議、私は神様ではないのに。椅子に鎮座しひたすら呼吸を繰り返す。伸びた背筋長い髪上を向く睫毛きれいな洋服。私は清浄であるために完璧でなければならない。

本当に?
どこからか入ってきた鳥が息も吸えずに落ちる。埃一つない。完璧な部屋。私の存在だけで成り立つ部屋。白い部屋。誰もいない。誰も入れない。誰も入らない。から、触れられない。温度を知らない。体温は正常に保たれる。知らない。グラスに注がれるワインみたいに血は本当に踊るのか。硝子の向こうはそれを実感出来るの?
硝子の前。椅子。ずっと繰り返し再生される人の営み。私は完璧であっても、私の瞳が映すのは必ずしも完璧なものではない。私は、私であるなら、何故こんな所にずっと居るんだろう。
安住して、与えられるきれいなものを飲み込むのみ。それが本当に毒でないと言える?蝕まれている。正しく美しいものに侵食されている。

確かめなくては。
確かめなくては
管を剥ぎ取り硝子を破る。私は私の足だけで生き残ることが出来るだろうか