虫の日
それは帰宅し、着替えをしている時のことだった。
目の端に映った、サッと動く黒いもの。ばっとそちらを向き、目にしたものに
「ひぃぃぃ」
情けない悲鳴をあげてしまう。
「どうした」
慌てて駆けつけてくれたキラウシに、黒い奴がいた辺りを指差した。
「出た……」
「出た?」
「だから、いたの、ゲジがっ」
どこにいるか分からない恐怖から鳥肌が立ち、その場にしゃがみこむ。 
するとキラウシが呆れたようにはぁと息を吐き出した。しばらくガサゴソ動く音が聞こえていたが
「ほら、もう逃がしたから」
と声が聞こえてきた。
「ほんと……?」
恐る恐る顔を上げる。キラウシは短く「あぁ」と答えると、手を差し伸べてきた。その手を取って立ち上がると、私はほぅっと安堵する。
「お前、意外と乙女なんだな」
「お、おとめ?」
思ってもみない言葉に驚き、目をパチクリさせた。
「だって虫苦手なんだろ?」
「でも乙女とか、違うし」
「しっかりもののお前にも可愛いところあるって」
「いや、だから……」
「これがギャップ萌えってやつか?」
「もう、やめて……」
「照れてるのか、可愛いな」
言われ慣れてない可愛いという言葉に、私は顔を真っ赤にして再び踞ってしまった。


×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -