◎ 01
俺だけを見て?
そんな笑顔俺以外に向けないで。
俺は臆病だから自分だけを見てなんて言えないけど。
君の笑顔のためなら命だって捧げられるよ。
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早乙女学園Aクラス一十木音也。俺はアイドルを目指してここに来た。一年という限られた短い時間の中で夢を叶えるため音楽を学ぶのだ。
元々ギターを弾くのが好きな俺は余裕…は言い過ぎだけどそこそこいい成績を保っていた。クラスで10位内ぐらい。
友達もできた。同じクラスの真斗、那月、そして同じ部屋の同居人Sクラスのトキヤ。あと、レンに翔、七海、渋谷。みんなすごくいい人ですぐに打ち解けた。
…そして、大好きな恋人もできた。なまえ。同じクラスの女の子。ほんの少し口が悪い気もするけど本当は優しい心遣いの出来る――そうだな、天使?あははっ、言ってて恥ずかしいや。
でもこれが本当の事なんだからなまえはすごいよね。天使、うん、しっくりくる。
俺はもう一人じゃない。こんなに素敵な人達に囲まれて暮らしているなんて子供の頃の俺は想像もしなかっただろう。大丈夫。10年後のお前は幸せだよ。
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「なまえー!次移動だよっ!」
「あーはいはいうるさいよ大型犬。そうだねー、移動だね行こうねー」
「おっ、大型犬!?ヒドイよなまえ!」
「音也くんとなまえちゃんは今日も仲良しですね!」
「ああ、少々騒がしいがな」
こんな適当な扱いも愛情のうち、照れ隠し。何て言うんだっけこういうの?
ああ、ツンデレ、だ。トキヤと同じ。なまえの方が断然可愛いけど。
「むぎゅー」
「音也やめて。廊下で抱きつかないで」
「なんでさー。もう」
「何でってアンタねぇ…」
どうにも人目のあるところでイチャイチャさせてくれないのは照れ屋さんだから。
…もう、可愛いなあ!
「あ、トキヤだ」
「…貴方達は廊下のど真ん中で何をしているのですか」
呆れたような口ぶりになまえはフン、と顔を背けた。
「べーつに。なんにも」
「音也も程々にしてください。恋愛禁止なのですよ」
隣でなまえが何か言ったのが聞こえた気もしたけどよく聞こえなかった。
「あははっ、わかってるよー!節度ぐらい守れるよ」
「そういう訳ではないでしょう!」
「トキヤが怒った〜!逃げろ〜!」
なまえが笑いながら走って行く。
「あっ、こら」と手を伸ばすも届かなかった手を下げトキヤは俺に二度目の注意をした。
「恋愛は禁止、ですよ。音也」
…わかってるさ。そのぐらい。
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