「…やってしまった」

蘭丸と同棲を始めて半年。料理は悔しい事に蘭丸の方が何倍も上手いから私は料理以外の家事を受け持っている。まあそれより何をやらかしてしまったのかだが、まあやらかした。トイレットペーパーがないだの醤油がないだの、思い出した物を全て買ったら案の定重くて持てなくなってしまったのだ。
我が家の交通手段はチャリしかない。しかも一台しかない。蘭丸は仕事。必然的に私は徒歩での移動を強いられてしまう。
お陰で同棲し始めてから5キロ痩せた。みんなにもオススメするよ、黒崎蘭丸同棲ダイエット。強制的な運動で激減!うん、金になりそう。

まあそんなことは置いといて。

「これどうするか」

チャリがあればなあ…。この大きな袋三袋は女の私には無理がある。しょうがないからタクシー使おうかな。うん。これはやむを得ない。また無駄遣いとか言われそう。
自分自身に言い聞かせてタクシーが通るのを待った。…のだが一向に通らない。おかしい!これはおかしい!こんなに太い道なのに三十分立ち尽くして一台も通らなかった。これは節約の神からの試練なのか。むしろ喧嘩売ってんのか。

「……あー、しゃーない…」

意を決して荷物と向き合う。
三十分立ち尽くしてッ!なんの成果も得られませんでしたッッ!!!!
荷物に敬礼してから持ち上げた。持ち上げるだけでこんなにふらつくなんて…家まで1キロぐらいあるのに酷すぎる仕打ちだ。チャリをもう一台買うべきだ。今日蘭丸が帰ってきたら絶対訴える。

一歩、また一歩と歩みを重ねる。気分は登山家だ。街行くみなさんから見たらただのでかい荷物持った女だけど。

「お前何してんだ」

この聞き覚えのあるハスキーボイスは。

「蘭丸!!」

「お、おう…つかあんまりデケェ声で呼ぶんじゃねえ!」

「重い助けて。私もうダメ」

は?と言う表情の後荷物を見てため息をつかれた。

「あのなぁ…」

「ごめんって!わかってる!でもトイレットペーパーも醤油もお砂糖も油も切れてたじゃん!全部買ったんだよ私と蘭丸の愛の巣を快適な暮らしにするために!」

お、おう…と若干引き気味の返事を返す蘭丸の腹に肘鉄をかます。

「イッテェ!何しやがるこのクソアマ!」

「うるさいうるさい!もう!私今忙しいから!てか蘭丸ここで何してんの?仕事は?」

愛車に跨る蘭丸はTシャツとジーンズでオフなのかと思うほどラフな服装だ。

「いや、移動中だ。てかお前…そんなにあるならタク呼べよ…」

「ぐっ…蘭丸に無駄遣いって言われるかと思って…てかタクシー通らなかった…」

少しばつが悪くなって俯いた。なんか恥ずかしいなあ…タクシー呼んでいいんだ。次からバンバン呼ぼ。こんにちはリバウンド。

「一個貸せ」

いつの間にか一つはカゴに入れられていて、寄越せと手をヒラヒラさせている。素直に一つ渡すと「チッ…重っ」と文句を言われた。

「ホラそれ持て。んで後ろ乗れ」

クイクイと後ろを指さされ、お言葉に甘えて素直に乗る。

「重くない?」

「重いに決まってんだろこんな荷物!!!!動くぞ落ちんなよ」

静かな住宅街を大の大人がニケツしているのは正直恥ずかしかったが蘭丸の優しさを考えるとどうでもよくなった。なんだか青春っぽくて高校時代をやり直しているみたいだ。

「高校生の時に出会ってても付き合ってたかなー?」

「さあな。…つかその頃は荒れてたからな」

「あー…」

…黒崎家の崩壊。
元御曹司だからか蘭丸は実はお行儀はいい。初めてきっちりと手を合わせて「いただきます」と言う蘭丸を見た時は笑いが止まらなかった。キャラじゃなさすぎて。

「…多分。」

「ん?」

不意にかけられた声に反応する。

「多分、あの頃出会っててもお前に惚れてた。でも付き合いはしなかっただろうな」

「……」

「経済的にも年齢的にも無力すぎたから」

「……」

「お前に迷惑かける事になってただろ」

「……」

「おい」

「らんまるぅ…」

「っ!?何お前泣いてんだよ!!」

キキーッ!と急ブレーキがかかる。
狼狽える蘭丸可愛い。じゃなくて。

「過去にIfがないのはわかってるよ。でも蘭丸の辛かった頃にもし私が傍に居てあげられてたらって、思って、ごめ、涙止まんない、」

「…ありがとな」

ぐいっと親指の腹で目元を拭われ頬に軽く口付けられた。てっきりウゼェとか泣きやめとか言われると思っていたから驚きで涙が止まる。

「確かに俺の過去にお前は居ないかもしんねぇ。でも俺の未来にはお前がいるだろ」

「……蘭丸それってプロポー、」

「ハァッ!?お前…ハァッ!?何言ってんだこのバカ!」

途端に顔を真っ赤にして悪態をつく蘭丸を見て私もつられて赤くなる。

「だって未来とか何とかプロポーズみたい。…これからもいてくれるの?」

「〜〜〜だーーーーっ!!一生俺のために買い出ししやがれコノヤロウ!」

耳まで真っ赤になった蘭丸は勢いよく発進しチャリごとこけた。
私達はこんな風に口喧嘩しながらこの先もずっと一緒にれたら。…いいな。

私の呟きは蘭丸の雄叫びによってかき消された。








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全くイケメン臭漂わなかった
まめくんありがとう 今何でもするって言ったよね?



イケメン臭漂うけど少し照れてる蘭丸
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