──昼休み
昼食は中庭のベンチに座って室ちんと一緒に食べるのが俺の日課。



俺は購買で買ったパンをいくつも頬張りながら、今朝のことを室ちんに愚痴った。




「──って感じなんだけど、酷いと思わな〜い?」


「う〜ん…悪気はないんじゃないか?アツシがお菓子を食べてたから遠慮したとか?」


「はっ?お菓子ならいくらでも食えるし」


「ハハッ…そんな拗ねるなよ。紅いもタルトくらいデパートの沖縄フェアの時にでも俺が買ってやるからさ」




沖縄フェアとかいつあんだし…
と、ツッコもうかと思ったら室ちんはベンチから立ち上がった。




「じゃあアツシ、悪いけど次の授業で歌のテストがあるんだ。個人的に少し発声練習しておきたいから俺は先に戻るよ」




何言ってんの?しかも、室ちんなら必要ないじゃん。
しかし、この手のことこそ室ちんにツッコんでも仕方ないと理解している俺はさらりと流した。




「頑張って〜」


「ありがとうアツシ。良い結果が残せるよう精進してくるよ」




きっと五時間目は音楽室から大歓声が聞こえてきてみんな何事かとびっくりすんだろーな〜
なんて30分先のことを思い浮かべながら、俺は室ちんの後ろ姿を見送った。










俺は室ちんが戻った後も教室には戻らず、一人でベンチに座り、ぽかぽか陽気の中日向ぼっこをしていた。
勿論お菓子を食べながら。



この時間ちょ〜好き〜…
あ〜あのパンケーキ雲今はアイス乗ってんじゃん。旨そ〜
他に旨そうな雲ないかな〜
あっ…あの雲……



紅いもタルトに見えんだけど…



俺の頭には怒りマークがひとつ。
さっき室ちんに愚痴ったにも関わらず再び今朝のことを思い出し、俺は腹の虫の居所を悪くした。




あ〜またムカついてきた…
マジあだ名ちんあり得ね〜し。
たまにお菓子くれたりすんのに何で今回はないワケ?
だいたいクラスの全員にあげてたっぽいのに俺だけないとかサイテ〜。意味分かんな〜い。
俺座ってても超目立つのに忘れてたとは言わせないからー。
もしかして仲間外れ?高校生にもなってバカじゃん。俺そんなの気にしないし〜。

ちょっと顔可愛いくて、お菓子くれるから良い子だと思ってたけどあだ名ちんって本当はかなり嫌な奴?

あ〜ウゼー奴ってヒネリつぶしたくなる。




自分でも何故こんなに根を持っているのか分からない。だけどムカつくもんはムカつく。



イライラがMAXになった俺は今朝と同じくふて寝でもして、気分を紛らわそうとベンチに横になった。



しかし、俺の体では一般サイズのベンチの横幅縦幅が足りるはずもなく、ベンチから体がはみ出し、窮屈な体勢に余計イライラを募らせた。



仕方なく起き上がり、今度はベンチに浅く腰掛け、背もたれにだらりと体を預ける。



そのまま目を閉じてようやく眠れると思った矢先…




「紫原くん…ちょっといいかな?」




当然誰かに声を掛けられた。



はあ?…マジ何なの……邪魔すんなし。



眠りを邪魔され不機嫌そうに目を開けると俺の前に立っていたのはあだ名ちんだった。



うっわ……最悪…
あんたのせいでイラついてんのに…



俺はあからさまにむすっと嫌な顔を作り、冷たい口調で答えた。




「何?俺寝たいんだけど」


「ご、ごめんね!すぐ終わるからちょっと待って…」




そう言って、俺の態度に少し顔を強ばらせながらあだ名ちんは焦りがちにサブバックからある物を取り出した。
そして、それを恐る恐る俺に差し出す。




「これ…沖縄旅行のお土産なんだけど……よ、良かったら貰ってくれる?」




差し出されたのはみんなに渡していた紅いもタルトではなく、沖縄限定のまいう棒セットだった。



………



……俺にもちゃんとあんじゃ〜ん!
しかも、紅いもタルトとよりこっちのがいいかも〜!



俺は先ほどの態度から一変、お土産が俺にも用意してあったことの喜びと、今まで見たことも食べたこともないまいう棒を前に目を輝かせた。



あだ名ちんもそんな俺の様子を見て安心したのか、顔付きが徐々に柔らかくなっていく。




「これ全部俺にくれんの〜?」


「うん!紫原くんいつもこれ食べてるから好きかなって思って」


「うん超好き〜!マジありがと〜」


「喜んでくれたみたいで良かった!」


「………」




あだ名ちんの嬉しそうに笑った顔を見て俺は気がついた。



俺が今朝からずっと腹を立てていた本当の理由に──



お菓子を貰えなかったことも
クラスで俺だけ渡されなかったことも
ムカついた。



だけどそれは親しい訳じゃなくてもあだ名ちんのこういう優しいところを知ってるからこそ俺が勝手に裏切られた気になってムカついてただけと…



俺は貰ったお土産を見つめながらさっきまで散々心の中で悪態を吐いていたことを反省した。
(俺だってもう子供じゃね〜からいけなかったことぐらい分かるし!)





あだ名ちんは一人分くらい間を空けて俺の隣に腰掛けた。




「お昼ごはん食べたばっかりなのに今渡してごめんね」


「全然ヨユーだし……だけど俺にはないのかと思ってた」


「そんな訳ないじゃん!ただ紫原くんだけみんなとは別のだったから……他の人には秘密ね?」


「……ぅん…」




はにかんだ笑顔で口の前に人差し指を立てるあだ名ちんを可愛いと思うと同時に俺は胸が一気に高鳴った。



そ、それって…俺だけ特別ってことでしょ…?



……って、べっ別にあだ名ちんは俺がまいう棒を好きだと思って買ってきてくれただけで、もしもこれを見つけてなかったらみんなと同じ紅いもタルトをくれてたはずだしっ…



…深い意味はないのに何考えてんの、俺っ!



普段湧くことのない感情に俺は思わず戸惑い、必死に打ち消した。




「それでね……あげておいてアレなんだけど…どんな味があるのかな〜なんて…」




一人で勝手に赤くなっている俺をよそにあだ名ちんはまいう棒セットを興味津々に見ている。
確かに俺もどんな味があるのか気になるかも…




「いいよ〜。見てみよーか〜」


「え〜本当にいいの?ずっと気になってて、だったら自分の分も買えば良かったかなって思ってたからありがとう!」




あだ名ちんは手の平を前で合わせて、さっきの俺の様に目を輝かせた。





とりあえず一つにまとめられた袋の中から見える分だけで、黒糖味、パイナップル味、サーターアンダギー味とどれも沖縄定番の名産品の味ばかり。
袋に貼られているシールには"沖縄限定まいう棒!全20種類入り"と書かれていることから、沖縄名産品を網羅しているに違いない…果たしてどんなキワものと巡り合えるのか二人して心を踊らせた。



俺は大袋の封を開けて、一本一本味を確認しながらベンチに並べていく。




「ゴーヤー味って…苦いのかな?」


「ゴーヤー味あるのにゴーヤチャンプルー味もあるし〜」


「本当だ、どっちか一つでいいのにね」


「これはてびち味だって〜。てびちって何?」


「てびちは豚足の煮付のことだよ。実物は美味しかったからこれはいけると思う」


「へ〜…あっ、ミミガー味もある。これも豚でしょ〜?」


「そうそう、豚の耳の皮。ソーキ味もあるけどこっちは豚のあばら肉だよ」


「豚ばっかじゃん。
お?…やった〜沖縄そば味じゃ〜ん。俺これなら実物食ったことある〜」


「沖縄そば味とソーキ味一緒に食べればソーキそば味になるのかな?」


「面白そうだからそれ試してみよーよ〜、俺ソーキそば食ったことないけど」


「あははっ…じゃあ味分かんないじゃん」




全20種類を並べ終わると、俺とあだ名ちんの間はまいう棒で埋め尽くされた。




「意外と食べれそうな味ばっかだね〜」


「まいう棒って昔よく食べたけど、たまに何でこんな味作ったの?!ってのあるもんね〜」


「ちょっと前に出たのでタイヤ味ってのあるよ〜」


「えっ?!今は無機物も味になってるの??!」


「でも意外と癖になる味だよ〜」


「そ、そうなんだ…こ、今度食べてみようかな…気が向いたら」


「あとドックフード味が来週出るけどちょっと楽しみ〜」


「さ、さすが紫原くん…!すべてのお菓子を愛してるんだね」


「ま〜ね〜」




思っていたよりお土産だけあって人にあげる前提で作ったのか酷い味はないっぽい。
でも実際に食べてみないと分からないのがまいう棒。




「ねぇねぇ、どうせなら一緒に食べてみな〜い?」


「でも紫原くんにあげたのだし悪いよ…」


「いいじゃん食べようよ〜」


「な、ならお言葉に甘えて頂いちゃおうかな……!」




やはり普段見ない特殊な味が相当気になるのか、あだ名ちんも遠慮しながらも
並べた中から気になる味を選んでいる。



俺も最初の一つ目はインパクトのある物がいいと思い、中から黄色いパッケージに包まれた特に変わった味を手に取った。




「じゃあさまずこれからいかな〜い?」


「え〜ウコン味か〜」


「で、その次はタコライス味にいけばいいじゃ〜ん」


「口直しを準備するとは意外に用意周到だね」


「だって、じゃないとさ〜この前食べたのでヤバいのあって〜──」




俺は無駄話を挟みながら、あだ名ちんとまいう棒を何本か半分こにして食べては味の感想を言い合った。




「やっぱりウコンは酷かったね…タコライス味なかったらきつかったかも」


「え〜俺は意外といけたけどな〜」


「紫原くん意外に味覚音痴だったりする?」


「そんなことねーし〜…あと俺はシークヮーサー味とか結構好きだったかも〜」


「爽やかな味したよね」


「じゃあ次はこってり目にてびち味いく〜?」




俺がそう言うと同時に五時間目を知らせる予鈴が鳴った。




「あっ…チャイム鳴っちゃったね…教室戻ろっか」


「え〜まだ5本しか食べてないんだけど〜」


「私はお弁当とこれで結構お腹いっぱいだよ〜」




俺は名残惜しく、あだ名ちんとベンチに並べた残りのまいう棒を入っていた袋に戻した。




「じゃあ教室戻ろっか…」




あだ名ちんがそう言ったのを合図に俺たちはベンチから立ち上がった。



中庭から一年校舎までは近い。それに次の授業の担当教師も必ずと言っていいほど毎回遅刻してくる為、俺とあだ名ちんはゆっくりのんびりペースで他愛もない会話をしながら歩き出す。



しかし、俺は会話をしながらも腕に抱えたまいう棒セットに何度も視線を落としては喉を鳴らした。



それもそのはず。
本来なら昼休みだけでまいう棒に換算したら20本分の量のお菓子を食べてるところ、今日はまいう棒5本の半分と細かいお菓子をちょっとだけ。足りるはずがない。



お腹減ったし〜。
教室に戻る間に何本か食べようかな…



そう思って俺は抱えたまいう棒セットの中から最後に食べようとしていたてびち味のまいう棒に手を伸ばそうとするが…



まいう棒の直線上に楽しそうに喋るあだ名ちんの顔が視界に入って、俺はすぐに手を引っ込めた。



さっきまで二人で仲良く半分こにして食べていたのにあだ名ちんが隣にいて、一人で食べるのは何だか気が引けてしまったのだ。



俺は代わりにポケットに入っていた飴玉を口に放り込み、満たされない空腹を誤魔化した。




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