何だか見覚えのある金色が見えた気がして、スコールは立ち止まった。
もう一度よく見てみて、やはり、と思う。
木の影に体が半分以上も隠れているが、ティーダだ。

ティーダが一人でいるのは珍しい。
自称『ニギヤカ担当』らしいが、ニギヤカ士が何人もいるここではティーダも影が薄く…なるわけがなく、三人集まれば姦しいどころか爆弾か何かのようだった。
被害を被るのは主にスコールだ。

だからと言って放っておけるわけもない。
万一敵襲に合えば不利な体制で苦戦を強いられることとなるだろう。
スコールはティーダに向かって歩き出した。

すぐ近くまで来ても、ティーダは気付く様子がない。
スコールはどうしたものか迷ったが、声をかけた。


「ティーダ」

「えっ…」


振り向いたその表情にスコールは目を見開いた。
くしゃくしゃに歪んだ顔は、今まで見たことのないものだった。

こいつでもこんな顔するのか。
一度思ってから、スコールは考えを振り払う。
いつも笑顔でいるということは、その下に何かを隠しているということだ。
でなければいつも笑ってばかりなどいられない。

ティーダは唇をぐっと歪めて、そしてにかっと笑った。


「何か用か?」

「いや…」


少し俯いて、言葉を濁す。
真っ直ぐ見つめられるのは苦手だった。


「…独りは危険だ」

「って、スコールも独りだろ?」

「う」


痛いところを突かれて口ごもる。
頑なに独りでいることを貫いているわけではない。
共に戦う仲間がいる安心感も知っている。
だが、独りが気楽なのには変わりなかった。


「スコールってなんっか抜けてるよなあ」

「……」


ほっとけ、と思うが、今スコールがティーダを放っておけなくてここにいることは事実だ。
矛盾している。
自分でもわかっているが、やはり口を出さずにはいられなかった。
ティーダ、と呼び掛ける。
何?と返ってくる笑顔。


「…無理に笑わなくてもいいんじゃないのか」

「そういうスコールは、もっと笑った方がいいぞ」


言って、ティーダはぐっと眉を寄せてしかめっ顔をする。
もしかしてそれは俺の真似か。
はあ、と呆れて溜め息を吐くと、ティーダがあっけらかんと笑った。
そして不意に笑いを止めると、あのさ、と言った。


「俺の名前の意味、知ってる?」

「いや…」

「どっか遠い国の言葉でさ、太陽っていうんだって。明るい子になりますようにって、周りの人を照らせるような人に」

「…太陽」

「そ。その甲斐あってか知んないけど俺、晴れ男なんだ。でも今雨降りそうだなって、空、見てた」


そう言って、また空を見上げる。

それは呪いだ、とスコールは思った。
言葉に篭められた願いはティーダの中で温められ、呪縛に変わる。
太陽みたいになりなさい。
太陽にならなくちゃいけない。
遺された言葉は戒めるように生き続け、いつしかティーダを縛る。
ティーダは自分で自分を呪っている。

そこから解き放ってやることはスコールの役目ではない。
スコールには出来ない。

代わりにスコールはぽつりと言った。


「…俺の名前の意味はわかるか」


うん?とティーダがこちらを向く。


「スコールって…ざーって降る、あれ?」

「そうだ。…俺は雨男だ」

「はは、ぽい」


じゃあこの天気スコールのせいかよ。
そう言って笑い、また空を仰ごうとした頭をスコールは押さえ付けた。


「ちょ、何!?」

「いいから黙って聞け」


ティーダは素直に口を噤み、なすがままになる。
無理矢理下を向かされたティーダの頭を見つめながら、スコールは言葉を探す。
聞けと言ったものの、うまく言い表せるかわからなかった。
それでも心の内を探る。
そしてやっと探し当てた言葉を口にした。


「…雨なら、泣いてもいいんじゃないか」

「………は、かっこつけやがって」


手が払いのけられることはなかった。
俯いて殆ど見えないティーダの表情の、口元は僅かに笑っていた。


誰かを温かく照らしてやることは出来ない。
涙を乾かす太陽にはなれない。
でも、涙がばれないように、そんな風に降る雨になれたら。


少しだけ震えている唇を見ながら、スコールは思った。







ありがちだけど、タメっておいしい。

呪いって言うと言葉は悪いけど、見方を変えれば自分を律する誓いになるわけで、ただスコールの考え方が暗いだけ。
ティーダは頑張り屋さんすぎて、泣いてもいいのにって思う。




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