気が付くと、よくわからないところでふわふわしていた。
ぼーっとしながら僕は、母さん、とうわごとのように呟く。


「なあに?」


独り言だったはずの言葉に返事が返ってきて、僕はがばっと起き上がった。
向こうに、優しく笑っている女(ひと)がいる。


「母さん…?」


長い髪の毛を結い上げて、ふわりと佇むその姿はまるで花のよう。
凛と咲く一輪の花でありながら、一面の花畑をも思わせた。
僕は駆け寄る。


「母さん、なんでしょ?」


その女は、何も答えなかったけど柔らかく笑ってくれた。
やっぱり、母さんだ。

ぎゅう、と抱きつく。
優くていい匂いがした。


「会いたかったよ、母さん…!」


涙を流してしまった僕の背中を、母さんは優しく優しく撫でてくれた。
本当は、想像していたのとはちょっと違ったけど、暖かく包んでくれるこれが母さんなんだと思った。

僕が泣き止むまで、母さんは背中に手を回していてくれた。
赤ちゃんにするみたいにゆっくり揺すられて、少し恥ずかしくなって体を離す。
そして僕が笑うと、母さんも笑ってくれた。


「あ、ねえ、二人は?」

「二人?」

「ヤズーとロッズだよ。二人もずっと母さんに会いたがってたんだ!どこにいるの?」


母さんは微笑みながら、ゆっくりと首を振った。
僕は首を傾げる。


「もしかしてまだ来てないの?何やってるんだろう、とろくさいな」


母さんはまた首を横に振った。
すう、と頭の奥が冷える。


「…まさか……僕だけ?」


母さんは、今度は頷いた。


「ど…どうして!だって二人もずっと…」

「カダージュ」


優しく名を呼ばれて、びくりとしてしまう。
母さんの手が僕の頭を撫でる。


「ここに来れたのはね、カダージュが頑張ったから。いい子だったからだよ」

「で、でも…二人も頑張ってたよ?ヤズーはたまに酷いこと言ったりするし、ロッズはすぐ泣くしうるさいけど、でも…」


僕は母さんをちらりと見た。
母さんが、ん?と首を傾げると、両側に分けられた前髪が揺れる。
僕は踵を返して、どちらともつかない方へ向かった。


「…やっぱり、そんなはずない!僕、探してくる!」

「カダージュ」


背中を追う声に僕は振り返る。
さっきとは違った気持ちで、何だか泣いてしまいそうだった。


「行くの?」

「だって、僕、僕…」

「もう、頑張らなくていいよ」


おいで。
そう言って広げられた腕の中に、僕はふらふらと戻っていった。

優しく体を包む腕。
優しく鼻を擽る柔らかな匂い。
それはとてもあたたかだったけれど、これが本当に僕の求めていたものだったんだろうか。






絶望しているカダージュは良い。
カダージュ本人が救われるのってセフィロスとは別の確固とした存在になることな気がするから、あの終わり方は強制終了でトドメ刺したように見える。




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