「よ、スコール」


朗らかに挨拶してきたティーダを見て、スコールは固まった。
ティーダを、というよりはティーダの指に挟まれているものを見て。


「…それは」

「ん?どれ?」

「お前が今吸っているものだ」

「これ?何、スコールも吸う?」

「…煙草じゃないか」


煙草だけど、ときょとんとするティーダにスコールは溜め息を吐く。
いいか、喫煙は体に害をなす百害あって一利なしの物だ。第一お前は未成年だろう。未成年の喫煙は法律で禁じられているだけじゃなくて、成長にも影響を及ぼす。身長が伸びなくなるぞ。いいのか。
そこまで頭の中で考えてから、スコールはその一部だけを口に出す。


「…未成年だろう」

「お堅いなー。スコールってそういうのダメなんだ。意外」


意外って何だ、とスコールはむっとする。
スコールは寮生だった。
喫煙がばれたりしたら、生活態度から大きく減点される。
先生に見つかって会議に上げられ、その年のSeeD試験を受けさせてもらえなかった者もいたのをスコールは知っている。

ではSeeDになってしまえば、と思いきや、一般のガーデン生であった頃よりも厳しく制限される。
確かに、憧れのSeeDが煙草を吸っている姿を年少クラスの生徒なんかが見たら、こぞって真似をするに違いない。
事実、スコールたちがまだ幼かった頃にSeeDが煙草を吸っているのを見掛けて、ガーデン中で喫煙が流行したことがあった。
だが、これを由々しき問題と見たガーデンの教師がそのSeeDの合格を取り消して、大騒ぎになった。
スコールは、自分はそんな馬鹿な真似は絶対にしないと心に刻んだのだった。

何より、生活態度に難ありと見做されれば、問答無用でSeeDランクを下げられる。
あんなに勉強して必死で合格したっていうのに、煙草一本で給料を下げられるのは…


「…馬鹿らしい」

「手厳しいなぁ。わかった、じゃあもうスコールの前では吸わないから」

「そういう問題じゃない」


ティーダは困った、という顔をした。
スコールも困っていた。

放っておけばいい。
常のスコールならそう思うはずだし、頭ではそれが正しいと判断している。
だが、ティーダは何だか放っておけないのだ。
いつもニコニコしていて、何にでも興味津々で、いつか道を踏み外すんじゃないかと冷や冷やする。
そういえば、あのクラウドですら、ティーダには手を焼かされる、なんて苦笑していたのだ。
事あるごとに「興味ないね」などと言っている男にまで目が離せないと認識されるとは。
ティーダ、恐るべし。


「どうした?何をやっている」


そのとき後ろから聞こえた足音にスコールは安堵した。
振り返ると、喧嘩なら仲裁してやろうと言った風体でフリオニールが傍に来ていた。


「何か問題でも……あっ!ティーダ!」


お前!と怒声を上げながら、フリオニールがティーダに駆け寄る。


「何を吸っているんだ!」

「もぉー、勘弁してくれよ、のばらまで〜」

「のばらじゃない!」


スコールは少し身を引いてフリオニールに場所を譲る。
フリオニールに任せれば安心だ。


「中毒性が低いと言っても丸っきりないわけじゃないんだぞ!安易にそんなもので快楽を得ようとするなっ」

「快楽って…大袈裟だなあ」

「悩みがあるなら聞く。何でそんなものに手を出した」


そうだ、言ってやれ、とスコールは腕を組む。
だがティーダは少し怯んで、それから激昂した。


「…俺だって!昔は吸うなんて思ってなかったよ、でも!」

「でも?」

「……色々あるんだよ、俺だってさ…煙草くらい、いいだろ」


最後の方は呟くような勢いのなさで、今にも消え入りそうだった。
スコールは少しいたたまれなくなって、フリオニールをちらりと見た。
フリオニールは何故かきょとんとしている。


「煙草?クサじゃないのか、それ」

「は?」


フリオニールの言に声を上げたのはスコールの方だった。
その声にこちらを振り返ると、フリオニールは少し照れくさそうに笑った。


「何だ、スコールも人が悪いな。言ってくれればいいのに」

「…あ、いや…悪かった」


何故俺は謝ってるんだ。
少し混乱しているスコールを置いてフリオニールはティーダに向き直る。


「すまないな、ティーダ。てっきり薬物に手を出したものかと」

「なーんだ。…って、いやいや!流石に俺でもそこまでやらないッスよ!」


和やかに談笑している二人を見て、スコールは頭を抱える。
何だ?おかしいのは俺の方なのか?いや、俺は間違っていない、はずだ。ティーダも未成年の喫煙が禁止されているのはわかっているようだったし…

ぐるぐるしているスコールに、フリオニールがさて!と肩を叩いた。


「今ちょうど洗濯物を干していたところなんだ。スコール、手伝ってくれ」

「あ、いや、ティーダは…」

「一服の邪魔しちゃ悪いだろ。ほら、行くぞ!」


半ば引きずられるようにして連れて行かれるスコールに、ティーダはにこやかに手を振った。
一悶着の間にすっかり短くなってしまった煙草の火をもみ消して、煙の消えていく様子をぼんやりと見る。

初めて煙草を吸ったのは、まだティーダが五歳かそこらのときだ。
ジェクトが吸っている煙草を興味深そうに見ていると、ニヤニヤしながらティーダに差し出したのだ。
思い切り吸い込んで、死ぬほど咽せた。
それを見て大笑いしているジェクトを、涙をぼろぼろ流しながら睨みつけ、ティーダは思った。

あんなものを喜んで吸うなんて、大人はばかだ。
自分は大人になっても絶対に吸わない、と。


「絶対吸わないって、思ってたのにな…」


空になったソフトケースをくしゃりと握り潰す。
その銘柄は、いつか父親が吸っていたものと同じだった。






何となく、2の世界だと煙草の年齢制限なんて無いんじゃないかなと思った。
一本もらって「何だ、軽いな」とかいうフリオやばい萌える。
スコールはいい子。

ぶっちゃけ、ティーダは飲酒喫煙にファン喰いと若気の至りを順当にやらかしてると思ってる。




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