その夜、ジタンはふと目が覚めた。
寝転がったまま、暫しぼんやりとする。
視線の先にはクジャが身を起こして、何か口ずさんでいる。
あの歌だ。

クジャは壁の隙間から外を見ているのか、こちらに気付く様子もなくただ歌い続けている。
今までジタンが聞いた歌声のどれよりもほんの少し低く、でもどれとも同じように柔らかい響きだった。
自分もこの歌を歌うときはこんなに柔らかい声になるんだろうか。

クジャの優しい声が珍しくて、何だか照れくさくてジタンは目を閉じて身を縮めた。
温かい、と思う。

不意に歌声が止む。
もう寝るのか、と思い薄目を開けてクジャを見てみると、まだ身を起こしたまま、外を見続けていた。


「…ジタン、起きているんだろう」

「何だ、ばれてんのか」

「狸寝入りだなんて趣味が悪いよ」


ぽりぽりと頭を掻きながらジタンも身を起こす。
もう少し聴いていたかったんだけどな。
そう思いながらクジャを見やると、居心地の悪そうに視線を逸らす。


「…君が何度も歌うから、耳に馴染んでしまっただけだよ」

「何も言ってないだろ」

「目は口ほどにものを言うんだよ、ジタン」

「お前がひねくれてるだけだ」


ふん、と顔を背けて少し沈黙した後、クジャはこちらを向かずにねえ、と言った。


「あの歌、何ていう歌なんだい?」


ジタンはうーんと唸る。
マダイン・サリで、あの一族に伝わる歌だということを知った。
だが、曲の名前までは遺されていなかったようだ。


「強いて言えば、記憶の歌…?だけど」

「だけど?」

「俺は、いつか帰るところの歌って呼んでる」


いつか帰るところ、とクジャが復唱した。
すべてが終わって、眠りにつくところ。心が還るところ。


「クジャは帰りたいところ、あるか?」

「…どうだろうね。僕を受け入れてくれるところがあるとも思えないけど」


ジタンは何も言わなかった。
クジャのしたことは、この世界すべてを滅ぼしかねないことだ。
多くの命が失われた。
世界はクジャを赦さない。


「謝罪したい、とは思う。でも、僕も別に受け入れられたいわけじゃない。ガイアは僕にとって故郷ではないからね。かと言ってテラなんか真っ平御免だ」


クジャは少しまくし立てるように言って、俯いた。


「でも、この歌を聴いてると…帰りたくなるね。どこかに」


ジタンは、聞こえるか聞こえないかくらいの声で、そうだな、と囁いた。
二人分の歌声が夜空に溶けていた。







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