「スコール、まだ怒ってんのかよ」

「怒ってない」

「だから、悪かったってば」

「お前らがあそこで余計なことしなければハイスコア塗り替えてたのに…」


不機嫌オーラを全開にしながら机に肘をつくスコールに、バッツとジタンはさっきから謝り通しだった。
溜まり場は専らゲーセンだったが、意外とゲーマーなスコールはワンコインでガンシューティングゲームをクリアしたりする。
普段はスコールがゲームを始めると二人とも別のゲームをしに行くのだが、戻って来てもスコールがまだ熱中していたので、息を合わせて「わあ!」とその背中をどついたのだ。


「クリアしたんだからいいだろー?」

「良くない!ライフボーナスがつかなくてあのステージのスコア散々だったんだぞ!これでまたあいつに独走を許すことに…」

「『あーびん』だっけ?」

「そうだ…あいつは何であんなスコアが出せる…いや、多分途中で威力の弱い連射銃に変えてスコアを稼いで…」


ぶつぶつと呟きながら解析しだしたスコールを尻目に、バッツがハンバーガーにかぶりつく。
第二の溜まり場のこのバーガー屋は、水はセルフサービスだけどどれだけ居座ってもよくて、三人とも気に入っていた。


「てかさ、バッツ何だよあのざまは」

「え、セッション?」

「確かに難易度やばいけどさ、俺が稼いでんのにお前のせいで落とすとか」


スコール待ちの間やっていた音ゲーで、バッツのミスのせいで規定数の曲もプレイできずに終わったのだ。
たかが100円、されど100円。
あれは勿体なかった。


「おれさあ、人の真似すんのは得意なんだけど。ジタンもギターにすれば良かったんだよ」

「俺はドラムのが好きなの。バスドラ踏むのが快感なの」

「お前ら、聞いてるのか!」

「きーてるきーてる…あっ、バッツ!俺のポテト!」

「いいじゃん一本くらい」

「自分のあんだろー」

「おれもう全部食っちゃった」


はあ、とスコールが溜め息をついて手付かずだったハンバーガーの袋を開けた。
不意に三人の間に電子音が鳴り響いて、その手が止まりきょとんとした顔になる。


「誰、携帯」

「あー俺俺」

「…流石音楽専攻だな。着メロまでクラシックか」

「専攻って…ただの芸術科目の選択ってだけだろ?」

「あ、おれピアノすっげー得意!」

「知ってる。授業で聞いた」


芸術など興味なさそうなバッツが軽やかにピアノを弾きこなしたときはジタンも驚いた。
だがそれよりも、普段済ました顔をしているアルティミシアすらもぽかんとしていたのがおかしかった。
芸術の授業が終わって速攻でスコールに教えると、寧ろアルティミシアが保健の他に音楽まで担当していたことに驚いていたっけ。

携帯を開くと、メール一件の表示。
相手はわかっている。さっきのはクジャ専用の着メロなのだ。
いつだか家に置いてあるグランドピアノを弾きながら、ICレコーダーの調子が悪いからちょっと録音してよ、と言われて携帯で録ったのをそのまま使っている。


「あー…またかよ」

「何?お前のねーちゃん?」

「兄貴だって何度言わせんだよ」

「だって、なあ?」

「お前の兄さんが何だって?」


ハンバーガーを飲み込みながらスコールが聞いてきたので、ジタンは携帯画面に目を落とす。
仕方なしに読み上げた。


「夕飯の買い出し行くんだろ?ついでに鼻セレブ買ってきて(^o^)/」

「(^o^)/って…」

「風邪でも引いてんの?」

「いや、何か埃が駄目らしい」


ポテトに手を伸ばすといつの間にか随分減っていて、バッツを横目で睨み付ける。
バッツはきょとんとした顔でポテトを頬張っている。
ジタンは諦めて、自分も一本口に入れた。


「でもスーパーが近くにあっていいなあ」

「バッツんとこ辺境だからなー」

「コンビニはあるんだけどな。スコールは下宿だっけ。自炊してんの?」

「クラウドが昨日、実家から送られてきた米をお裾分けしてくれた」

「あー、お隣の浪人生か」

「今年21だっけ?何浪してんのあいつ」

「まだ一浪だ。病気で長いこと入院してたらしいからな」


スコールの口振りに微笑ましいものを感じる。
あまり他人に関心を示さないスコールが度々話題に出すのだ、口には出さないが気が合うのだろう。
へえー、と揶揄気味に相槌をうちながらバッツを見やると、バッツもにやつきながら、重ねてへえーと笑う。


「…何なんだ、お前ら」

「いや別にい。仲いいなあって」

「その男とあたしたちどっちが大事?」

「…馬鹿か」


スコールがうんざりと溜め息を吐く。
そしてジタンに向けてお前こそ、と顎をやった。
俺?と自身を指差したとき、レジカウンターの向こうで聞こえた声にジタンが敏感に反応する。
体ごとそちらに向けると、バーガー屋の制服姿の愛しの君が現れるところだった。
笑顔で手を振ると、少し戸惑っていたけれど、やっぱり微笑みながら手を振り返してくれる。
ジタンは満面の笑みになって、テーブルに向き直った。


「…ほら、お熱いことだ」

「うっせーな。いいだろあんまり会えないんだし」

「一緒に遊んだりしないのか?」


バッツの問いに、ジタンはうーんと唸る。
そりゃあ、したいのは山々だ。


「ダガーさ、結構なお嬢様で門限とか厳しいんだ。あんま時間取れなくてさ」

「お嬢様でもバイトなんてするのか」

「家には秘密。社会勉強したいんだって」

「やるなあ」


涼しい顔でコーラを啜っているスコールが恨めしくて、ジタンはあーあ、とわざとらしく声をあげた。
その点スコールはいいよな、と言うとコーラがストローの半ばでぴたりと止まる。
揶揄われた意趣返しをしてやる。


「同じ学校だもんな、リノアちゃん」

「ああそうそう。スコール何も言わないで先に帰るからびっくりしたんだ。制服デートとかいいよなあ」

「うん、俺もしたい。アレ女の制服は目立つから無理だけどさぁ」

「…あいつも、結構なお嬢様だぞ。元々ガルバディア学院に通っていた」

「うっそ!ガルバディア!?」

「何でうちに転校して来たの!?」


スコールがう、と言葉を詰まらせてから目を逸らす。


「…まさか」

「スコールを追って?」

「……」


無言は肯定の証である。
バッツとジタンは顔を見合わせた。


「ひゅーう!」

「やるうー!愛されてんなあスコール!」

「う、うるさいっ!」


顔を赤らめて、テーブルに突っ伏しそうな勢いでスコールが俯く。
どうにか矛先を自分から逸らせようとしたのか、顔を手で覆いながら、バッツは、と絞り出した。


「バッツは、誰かいないのか?」

「ああ、そういやバッツって浮いた話ないよな。好きな子とかいないの?」


バッツはきょとんと目を丸くして、うーんと唸った。
ジタンも、スコールですら次にバッツが発する言葉を心待ちにして身を乗り出す。
バッツは悩んでいたが、にぱっと笑顔になった。


「今はお前らといるのが楽しいから、そういうのはいいや」


ジタンがうっと詰まる。
顔が熱くなっていくのがわかった。
スコールを見やると、何と耳まで赤くなっている。
ジタンはじっとしていられなくて、バッツの頭をわしゃわしゃと撫でた。


「あーもう!可愛いなお前はっ!」

「わ、何だよジタン!」

「……そうだな」

「ちょ、スコールまでっ!」


二本の手に撫で回され、産まれたてのチョコボのような頭になっていくバッツを見て、スコールとジタンが笑う。
バッツは照れくさそうにしながらぼさぼさになった頭で笑った。

日も傾き始めていた。
最後はいつもどおり、いつもの言葉で別れるのだ。


「じゃあまた明日!」








アレ女→聖アレクサンドリア女学院。
着メロはクジャのテーマ。

バッツは多分数年放浪してて今頃高校に通っているのだろう。




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