久し振りに会った息子は、いつにも増して不機嫌だった。
たまにしか会えないんだからもっと愛想よくすりゃいいのによ、とジェクトは独りごちる。
だが思い起こせば、この生意気な息子がジェクトを笑って迎えたことなどただの一度もないのだった。


「ほんとに、何考えてんだよ!あんな子どもをさ、誘拐!?」

「誘拐じゃねぇよ。迷ってオロオロしてたら連れてきてやったんじゃねぇか」

「いかついおっさん二人で説得力ないだろ、通報されても知らないからな!」


誰にだよ、とジェクトは首の後ろを掻く。
ティーダは今にも殴りかかって来そうなほどに憤慨していたが、一戦交える気はないようだった。
そうなるとジェクトには何もできず、ただ弁解にもならない溜め息を吐くしかない。


「…大体さ、何であんな、手繋いだり」

「迷子にゃ手繋いでやるもんだろ。俺ぁ子ども好きなんだよ」

「誰が!?自分のガキにもそんなこと、」


言いかけてティーダは口ごもる。
ジェクトはそれを見て、ニヤニヤと顎をさすった。


「何だぁ?ヤキモキか、クソガキ」

「違う!うるさい、ばか!」


幼い頃と全く変わらない罵倒の言葉に、ジェクトは肩を揺らして笑った。
そういえば、息子の手を引いてやったことなどなかったかも知れない。
と言うのも、散々可愛がって(ただし、ジェクトなりに)ポロポロ涙を零しだしたティーダに手を差し伸べても、叩き落とされてしまうのが常だったからだ。
ばか、だいっきらいだ。そう言って。


「…だいっきらいだ」


ジェクトは笑う。
そしてティーダの傍らに寄ると肩をぐるぐると馴らした。


「…!何すっ」

「実の息子にしかできねぇことをしてやるんだよ!」

「うわあっ!」


咄嗟に身を引いたティーダの首に腕を引っ掛け、胸に引き寄せると、ふわふわの頭が目の前に来る。
母親似の柔らかい髪質を、ジェクトはがしがしぐりぐりと全力で撫で回した。


「痛っ…痛い!痛いって!」

「このジェクト様が撫でてやってんだ。ほれ、喜べ!」

「いたたたた、ばか、ふざけんな!」

「そーかそーか嬉しいか」

「苦し、ばか、も……離せよっ!」


力一杯突き飛ばされ、ジェクトが少しよろめく。
反動でふらついてるのはティーダの方だった。


「かーっ、可愛げのねえ」

「うるさい!」


ティーダは怒りに任せて後ろを向いた。
せっかくセットした髪がぐしゃぐしゃで、なのに頬が熱くて、ジェクトにだけは見せたくない。


「…あんたなんて、だいっきらいだ」

「そうかいそうかい」


あしらわれるような軽い物言いがまた腹立たしくて、ティーダは絶対振り返ろうとしない。
だから、ジェクトがどんな表情でその背中を見守っていたのかは、知る由もなかった。







ツンデレ親子。




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