くすくすと、いつまでも笑い続けるセシルにゴルベーザは辟易していた。
男の自分を母と称されただけでも複雑な心持ちなのに、こうも笑われては。
しかも、実の弟にだ。


「…セシル」

「ああ、ごめんよ兄さん。でも本当にお母さんみたいだったんだ。オニオンナイトとジェクトと並んでると、ふふ」


そう言ってまた肩を震えさせる。
面と向かってではなく背を向けているところがセシルの気遣いなのだろうが、それにしても居心地の悪いのに変わりはなかった。


「……セシル」


もう一度戒めるように名を呼ぶと、やっとセシルが笑うのをやめる。
ゴルベーザが安堵の息を漏らす。
セシルの笑顔のためならこの身を捨てる想いでいたが、自分が笑われるというのはやはり落ち着かない。
今度は親愛の意を込めて名を呼ぼうとしたとき、セシルが後ろを向いたまま口を開いた。


「兄さんも、家族を持てていたのかな。本当なら」

「…セシル?」


その背中から、視線の先を読み取ることはできない。
ゴルベーザはセシルの望むまま、正直に答えた。


「…さあな。そうかも知れないが、そうではなかったかも知れない」

「兄さんならきっと、優しい家庭を築けると思うんだ」


ゴルベーザはセシルの意図が読めず、少し首を傾げた。
声は明るいものだったが、それが努めてそうしているのがわかる。


「きっとあんな風に優しく子どもの手を握って、兄さんは、あんな風に」

「…セシル」

「…僕の手も、引いてくれた?」


ゴルベーザは息を詰める。
セシルは、泣いてはいなかった。
空に薄く浮かぶ月を見上げて、動かなかった。
この世界の月は思い出の中のものによく似ていたが、全く別の物だということをゴルベーザは知っている。
セシルも同じだった。

口を開くと少し喉が涸れていたが、ゴルベーザは構わず言葉を紡いだ。


「…お前は、まだよちよち歩きで、真っ直ぐ進むこともできなかった」

「……うん」

「私が手を差し出すと、嬉しそうに握って、共に歩いた。歩幅が合わなくて、私がなるべくゆっくり歩くとお前は…笑っていた」


拙い言葉だ。
ゴルベーザは思う。
けれど、どんなに悩んでも流暢に語ることなど出来はしまい。
無意識の内に飲み込んだ唾が喉を灼くように辛い。
そうか、とセシルが俯いた。


「兄さんが覚えててくれるなら、いいや」


セシルの背中に手を伸ばしたが、途中で拳に変える。
触れることなど出来なかった。

ゴルベーザは記憶の中の、失われてしまった小さな手を握り込んだ。







こんな話をする機会は4本編ではなかったから、そう思うと兄弟再構築の時間が取れるなんて幸せな二人だなあ。




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