コスモスの陣営へ向かっているときだった。
突如転移魔法の力を感じ、ガーランドは歩みを止めた。
少し先の方に魔力を有した光が現れる。
その輝きが薄れると、カオスに組する者の姿があった。
死に神と称されるその青年は、体を支えていた魔力が消えると体勢を崩し、地に膝をついた。
蹲まり体を震わせているその姿は、常とは似ても似つかぬほどに弱々しかった。
回復魔法を唱えているようだったが、集めた魔力が指先から拡散していく。
くそっ、と憎々しげに漏らしているさまから、もう殆ど力が残っていないのだと知れる。
ガーランドは足の向く先を少し変え、歩を進めた。
「手酷くやられたようだな、クジャよ」
「…ガーランド…!」
クジャは顔を上げ、ガーランドを睨み付けた。
重傷を負った体に見合わないほどに目をぎらつかせている。
ガーランドには、そこからは闘争本能しか読み取れない。
「何をしにきた…僕を嗤いにでもきたのかい?」
「自意識過剰も大概にせぬか。偶々居合わせただけのこと」
「じゃあとっとと行きなよ」
ぷいと顔を逸らすと、もう一度回復魔法を試みる。
詠唱もなしに魔法を発動させようとするとは、なかなかの使い手だ。
ガーランドは心の中で感服する。
だがそれも万全の状態であってこそ。
目に見えて消耗している今にあってはいたずらに力を使い果たすだけであろう。
ガーランドは身を屈めると、クジャに手を差し出した。
「…何のつもりだい」
「ここで無為に時を過ごすよりは、一度戻って体制を立て直した方が良い。わしの城に戻ればポーションの蓄えが」
「ふざけるな!君には関係ないだろう!」
ばしっと乾いた音を立てて手が払われる。
ガーランドは困惑した。
この青年が、必要以上にガーランドを嫌っているのはわかっていた。
元より己の目的を果たすために集まっただけの仮そめの同志たちには仲間意識など存在しないも同然だった。
露骨に嫌悪を顕わにする者もあれば、全く興味を示さない者もいる。
だが、クジャは始めからガーランドに対してだけ異常なまでに反感を見せてきた。
傍に寄るだけで逆毛を立てた猫のように敵意を向けてくるのに、離れていてもわざわざ口を突っ込んで言葉尻を取ったり穴を突いたりして憎まれ口を叩く。
ただ理解できなくて、ガーランドは溜め息を吐いた。
「わかったら、あっちへ行ってよ」
激昂しすぎたためか痛んだらしい傷口を押さえてクジャは唇を噛んだ。
この青年には、理解しあうどころか悟らせる気もないのだろう。
それならば、気遣う必要もあるまい。
ガーランドは立ち上がる。
クジャが様子を窺うように目線だけを上げる。
まるで捨て猫のような瞳だ。そう思った。
ガーランドはおもむろにクジャの側に寄ると、その体を小脇に抱えた。
「ちょ…!何をする、離せよ!」
「黙っていろ。身動き一つとれなくなった小童に何ができる」
「誰が小童だって!?」
ぎゃあぎゃあと喚くクジャをガーランドが一睨みする。
「余り騒ぐな。横抱きの方がいいか」
ぐ、とクジャが押し黙る。
横抱きは俗に言う姫抱きだ。
プライドの高いクジャにはとても耐えられたものではないだろう。
半ば暴れていた四肢を下げ、しゅんと大人しくなる。
ガーランドは体を揺らし豪快に笑った。
「…傷が痛むから、やめてくれない」
「ならば口を慎んでいろ。ピーチクパーチクと煩くてかなわん」
「何だって…言わせておけば!」
「もう良いわ。飽いた」
「ガーランド!」
ガーランドは踵を返し、元来た城の方へと歩みを進めた。
腕に抱えた体は、悲しくなるくらいに軽かった。
「…きちんと食べているのか?」
「ああもう!だから君に何の関係があるっていうのさ!」
直接の関係はないのに揃ってガーランド嫌いなジェノムかわいい
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