「今日も帰って来ない、か」


静まり返った家の中で、ティファが呟く。
そう大きくもなかった声は壁にぶつかってすぐに消えた。

マリンとデンゼルを寝かしつけてから、もう随分時間が経っていた。
まだ起きているということを知らせるために灯々と点けていた電気を消す。

クラウドが家に帰らなくなって暫くになる。
理由は言ってくれないし、電話をかけても出ない。
ティファにできるのは、ただ待ち続けることだけだった。

ティファは寝室に向かおうとして、ふと聞こえる音に立ち止まる。
先程まで気付かなかっただけで、ずっと傍にあった音。
虫の音や、風が木々を揺らす音。夜の声だった。
月明かりが室内を照らしているのを見て、何だか寝るのが勿体なくなってしまった。

ティファは踵を返し、戸棚の奥から瓶を取り出す。
わざわざコスモキャニオンから取り寄せた、上等の蒸留酒だ。
指先に引っかけるようにしてロックグラスを二つ持って、ティファはカウンター前に腰かけた。

ごろごろした氷をグラスに入れて、その上に瓶を傾ける。
琥珀色の液体から立ちこめる香りがふわりと鼻腔をくすぐった。
グラスを二つとも満たすと、ティファは片方を手に取った。


「乾杯」


かちん、とグラス同士が軽く鳴る。
そういえばこれも夜の音だ。
ティファはウィスキーを少しだけ口に含み、ゆっくりと飲み下した。
濃厚な香りのそれは、高いアルコール度数に反してすっきりと喉を通る。
流石、コスモキャニオンの名産酒である。
初めて口にしたときも、少しだけと言いながらつい杯を重ね、翌日に二人して頭を押さえたものだった。


「あれは、エアリスが悪いのよ。もう一杯、あとちょっとだけって言うから」


そう言いながら、ティファはくすくす笑う。


「まぁ、乗せられちゃう私も悪かったんだけど」


もう一口含むと、香りが鼻を抜けると同時につんと痛んだ。
ティファは俯く。
カウンターの向かいには誰もいないはずなのに、涙を見せてはいけない気がした。


「…私、だめだね」


グラスを置くと、琥珀色が少し揺れた。
それだけを見つめる。


「クラウドに何もしてあげられない。…私にできることって何なのかな」


ティファはエアリスのことを思い浮かべる。
思い出すのはいつも笑顔だ。
花のように笑うひとだった。

ティファはね、少し、悩みすぎ。
いつぞやそう言って微笑んだ。

溜め込んで、苦しくならない?
たまには吐き出したっていいよ。
お姉さん、ぜーんぶ聞いてあげるから。


「エアリスには頼りっぱなしだね」


カウンターの向こうを見つめると、向かいに置いたグラスの中で、氷がからりと鳴った。
いつかの夜と同じだった。







コスモキャニオンの自由時間で一緒に呑んでる二人がすごく好き。




戻る


×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -