クラウドにはどうしてもバレたくない秘密があった。
秘密というのだからバレたくないのは当たり前というのはさておき、命に関わることなのだ。
というか、バレたら死のうと思っている。
クラウドは素材集め用の袋を肩に担いだ。
皆が持つものより大分大きかったが、武器や防具もまとめてしまうためだ。
そう言うと、クラウドの素材集めの効率を知る仲間たちは納得した。
クラウドは周囲を見回す。
この辺でいいだろう。
そっと物陰に隠れて荷を下ろすと、どさ、と空袋に似つかわしくない音がした。
袋の口を緩め、その底を見てうんざりする。
ドレスに、かつらに、その他小道具諸々。
どう見たって女性専用の衣服だ。
クラウドはこれから、それに着替えるのだった。
最初に装備したのはいつだったか。
フル装備の効果に心惹かれたのは確かだが、実際に着てみたのは魔が差したとしか言えない。
少しギリギリではあったが、ゆったりしたそのドレスは小柄なクラウドになら着ることができた。
そしてその効果が欲しいがために、こうして持ち出しては出先でこっそりと着替えている。
素材集めが終わればまた着替え、袋の底に押し込んでから帰るのだった。
そんな風に隠れてやっているところがまた女装趣味のようで、クラウドは毎度げんなりする。
けれど、一度やると決めたからには躊躇しても仕方がない。
クラウドは肩当てを外して上着を脱ぎ、ドレスを頭から被るため両袖に腕を突っ込んだ。
「あれ?クラウド?」
後ろから聞き覚えのある声がして、クラウドは固まった。
嫌な汗が瞬時にぶわっと噴き出す。
「バッ…………ツ」
「向こう行ったんじゃなかったんだな。何してたんだ?」
何と言われても、女装しようとしてましたとしか言いようがない。
さっき敵が落として、とかティナへの土産にしようとして、とか色々言い訳が浮かんだが、今まさに着ようとしていることの理由にはならない。
クラウドがバスターソードで自害と首吊りで迷っている間にも、バッツはニコニコしながら近付いてきた。
そしてドレスに気付くと、あ!と声を上げ、クラウドはそれだけで心臓が止まる思いだった。
「それ、ライズ率上げるやつじゃん!いいなあ!」
「ああ、バレてしまっては仕方がない。実は俺の正体は鶴で、知られてしまったからには星に還……何?」
バッツはきらきらした瞳で、クラウドとドレスとを見比べている。
予想外の反応に、クラウドは対処法を頭の中で模索した。
「俺も着たい!」
瞬時にバッツは予想の範疇にないことを悟り、クラウドは考えるのをやめた。
着かけだった袖から腕を抜いてバッツに手渡すと、嬉しそうに受け取った。
防具や装飾品を外して頭からすぽっと被ると、くるりとドレスの裾を翻した。
「クラウド、どう?」
「どう、って…」
はっきり言ってただの女装だ。
バッツが誤魔化しのきかないくらいの短髪であることも手伝って、男がドレスを着たようにしか見えない。
まさにそのまんまだ。
「かつら、要るか?」
「おお!つけるつける!」
はしゃぎっぱなしのバッツを見て、クラウドはどこか拍子抜けする。
軽蔑したり引いたりするような態度が一切ないのも不思議なことだった。
「あんたは、抵抗感がないのか?…その、そういったものを着るのに」
バッツは目をぱちくりさせた。
そして少し考えてから、ああ、と納得がいったように頷いた。
「おれ、結構何でも装備できたからさ。慣れてるんだ。でも慣れちゃ駄目だよなあ、そういえば」
へへ、と笑うバッツにクラウドもつられて笑う。
さっきまであんなに悩んでいたのが何だか馬鹿らしかった。
あまり考え込む必要はなかったのではないか。
いっそバッツのように堂々と着てみれば、もしかしたら笑い話で済むことなのかもしれない。
クラウドは何だか肩の荷が降りたような清々しい気持ちで、一つ頷いた。
「あー、でもやっぱり駄目だなぁ」
「どうした?」
「丈が全然足りないし、肩も張っちゃって。やっぱり女の子しか装備できないんだな、これ」
「………」
「あ、おいクラウド!どこ行くんだ、これ返すよ」
「…売っ払っといてくれ…」
装備品が7からきてるので、多分サイズはクラウド仕様なんだろうと思う。
女の子たちは裾上げとかアレンジ加えたりしてうまく着こなしている!といいな!
それとも伸縮自在なんだろうか。
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