蒸し暑さに、ケフカは苛立っていた。
この世界はひとところ変われば気温も空気も変わる。
しかも暑いところと寒いところが隣り合っていたり、ばらばらなのだ。
めちゃくちゃにするのはいいが、勝手にめちゃくちゃになるのは腹が立つ。
瓦礫の欠片を力一杯蹴ってやろうとして、靴が薄汚れているのに気付いた。
一度気付いてしまうと気に障って仕方がないが、靴を磨かせる者もいない。
それがまた気に入らなくて、ケフカは地団駄した。
「何をしている」
ぴたと動きを止め、ゆっくり振り返るとそこにはコスモス勢の、やっぱり気に食わない男が立っていた。
「ああ、何かめんどくさい名前の人」
「フリオニールだ」
必要以上に武器を携えた男がむっとした顔でこちらに居直る。
ケフカは笑った。
「で?そのめんどくさい人が何か御用ですかあ?」
「…気配がしたから、様子を見にきただけだ」
「ご苦労なことで」
鼻で笑う。
ケフカはこの男が気に入らない。
夢だとか何だとかほざいて、逆境にあろうとも瞳から強い光が消えない。
嫌いだ。
「じゃあぼくちんに用はないんでしょ。さっさと帰って夢の続きでも見てなさい」
「用なら今できた」
そう言って、腰の剣をすらりと抜く。
ケフカは口元を歪ませた。
「私に刃向かうおつもりですか?ただ終焉を待てばいいものを」
「俺には夢がある。お前たちの好きにはさせない」
「だから愚かだと言うのだ!破壊の前にそんなもの、何の意味がある?」
「そうじゃない。破壊させないために夢を見る」
「くだらない」
ケフカは吐き捨てた。
こういう輩には、わからせてあげなければならない。
己が如何に無力かを。夢なんてものが如何に無意味かを。
魔力を体中に集めると、淡い光がケフカを包む。
その温かさにケフカは甲高い笑い声を上げた。
「何故、笑うんだ」
「何故!なぁぜ!おばかさんは嫌ですねえ。この圧倒的な力、みたされてゆく!笑いが止まらんのだ!」
「満たされる…?空虚なのか、自分が」
かくり、とケフカの頭が傾ぐ。
凝縮した魔力が拡散してゆく。
目を開けたまま、その瞳はただ空を見詰めていた。
「空っぽ?私が?」
弛緩していた口元が怒りに歪みだす。
わなわなと震え、その奥では歯がぎりりと鳴る。
そして笑い声が飛び出した。
「きーめたきめた!今決めた!お前もぼくちんが壊す!めためたに、ぶっ壊してさしあげましょう!」
ケフカはくるりと身を翻し、ステップを踏むと転移魔法を唱えた。
瞬時に発動した魔法がケフカの身を包み、姿が薄れていく。
「首を洗って待っていろ。その夢が潰えるときを」
甲高い笑い声を残して、ケフカは消えた。
一人残されたフリオニールは、剣を腰に納め、俯いた。
「どうしてそんな、身を切るような笑い方をするんだ…」
剣の柄を握り締めても、乾いた音が響くだけだった。
ケフカは原作と結構イメージが違うんだけど、うちはガリガリ体型の不健康な小さいおっさんのイメージが拭えないのでそっちの感じで書いてます。
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